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  3. 技術者に必要な説得の3要素 ~理屈だけで人が動けば世話はない~

私は前職において、職位と必要能力の関係をとりまとめたことがあります。人材育成を行う際、「専門技術以外のスキルとして、何を身に付けるべきか?」を明らかにし、研修プログラムを企画するためです(ココ)。

自身の経験から「こんな研修を受けたらいいよ」というリストをまとめたのですが、説得力がありません。それまでの悪業が祟ったのでしょうか? 「お前がいいという研修を受ければ、いい技術者になれるのか!?」と問われてしまいました。いい技術者なら、さっさと出世してますからね…(笑)

それはともかく、私は40代前半で技術職から企画職に転身したため、「技術者は論理的に説明できれば良い」という幻想は、さっさと捨てておりました。理屈だけで人が動けば世話はないのです。

まず意識したのは”大義”でした。会社としての研究ですから、技術的シーズだけでは不十分で、会社として取り組む意義が説明できなければダメなのです。当時は、SDGsなどに結び付けることで、その正当性を示していました。「この紋所が目に入らぬか?」って感じですね。これは便利に使えます。

まあ、大抵の場合はこれだけでは不十分で、「なぜ当社がやるべきなのか?」会社のコア技術や事業部ニーズと結びつけて説明をしていました。

しかし、それだけじゃ納得しない役員さんも居ました。ジーっと発表者を見ているんです。別の場で、その役員さんと話すことがあったのですが、「俺が見ているのは、論理でも大義でもない。コイツは技術者として、どれだけの熱意を持って提案しているか、俺は見ているんだ」と。 もちろん、その役員さんは技術のプロ。専門分野は違えども、技術者としての論理はお見通し。”決して嘘をつけない凄み” をお持ちなのです。

大義についても、いい加減なこと言うと喝が飛んでくるのです。赤鬼のような形相で、「こらぁ、お前~、俺が素人だと思って、適当なこと言ってるだろう!」と怒鳴られるのです。その上で「情熱があるか?」見ているんです。

そのような役員さんと接することが出来たのは幸運でした。その経験から、私はビジネスにおに必要な視点は以下のような3要素であると理解しました。カントが提唱し、夏目漱石も草枕で語った知情意なんです(ココ)。

知によったテーマはシーズオリエンテッドテーマ、情によったテーマはニーズオリエンテッドテーマ、意によったテーマは社会課題解決型テーマとも言えるでしょう。

研究者・技術者に論理が必要なのは言うまでもなく、種々の観点から大義を示すことが重要。ロジカルシンキングはもとより、クリティカルシンキング(批判的思考)が重要なんです。これはコンセプチュアルスキルとよばれる概念化スキル。その上で、「お客様のうれしさは何か?」、「提供する側は、どううれしいのか?」、他人を動かすだけの情熱(パッション)が必要なのです。これにはコミュニケーションスキルが必要なのです。

この3つのバランスについては、「アリストテレスの説得の3要素」にも通じます。ロゴス(logos)は論理、エトス(ethos)は ethics(倫理)~大義、パトス(pathos)は感情です。

私は身をもって、この3要素の大切さを感じてきました。だから自信をもって言えます。

ビジネスに必要なのは、知情意の観点。技術者は、論理・大義・情を説明できねばならない。論理はテクニカルスキル、大義はコンセプチュアルスキル、情を動かすにはコミュニケーションスキルが必要です。

この3つをバランス良く身に付けることが、技術者に限らず、どんなビジネスマンにも必要なことだと、私は考えています。□

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