キャリアは、上司と話すものなのだろうか。

人事の違和感

私は製造業でキャリア教育を担当しています。

上司が部下のキャリアの支援者になれたら――
そう考えて、研修や面談制度を整えてきました。

けれどある時、

「キャリアって、上司と話すものなんですかね」

そう言われて、言葉に詰まったことがありました。


先日、私が採用を担当していた頃に入社した
技術部の社員と話す機会があったのです。
そうです。30歳のキャリア研修に参加していたんですよ。

「どう? 技術部の仕事は楽しい?」

「ええ、ようやく一通りの仕事の仕方を覚え、
 上司と一緒に客先に出向いたりしていますよ。」

「それは良かった。楽しそうだね。
 ところで、今日の研修どうだった?
 上司との面談もセットでやってもらっていると思うけど…」

「ああ… 
 研修の話は面白かったですよ。
 キャリアって、こう考えるのかって…とても刺激になりました。
 けれど…」

「ん? けれど…?」

「キャリア面談なんですけれど、
 そんな話、自分の上司と話すんですかね?」

「…」

「今日の研修で、Will-Can-Mustの話がありましたよね。
 Willを上司に話したら、
 今の仕事に不満があるみたいになりませんかね。」

「…」

「あ、くれぐれも誤解しないで欲しいのですが、
 別に転職活動を進めているわけじゃないです…」

「…」

私は何と返していいのか分からず、黙ってしまいました。

それまで当然だと思っていた前提が、
少し揺らいだ気がしました。


そんなモヤモヤを抱えていた頃、
今度はマネージャー側の意見を聴く場があったのです。

私はいつものように、面談の意義について話した後、
面談の様子について訊きました。

「キャリア面談、どんな感じでしょう。」

「ん?… どんな感じと言われてもねえ…」

「… そうですねえ。 部下の”本音”は引き出せていますか。」

「… 本音? ”本音”なんて聞いてしまっていいの?」

「えっ? キャリア面談は”本音”を聴く場ですよ」

「こういっちゃなんだけど、部下の本音を聞いてしまったら、困るよね?
 聴くっていうことは、それに応えなきゃならない。
 要望聞いても、それに応えられるほどの権限、俺には無いよ…
 まして、部下のキャリアに責任なんて持てないよ。
 自分のキャリアだって、どうなるか分からない時代にね…」

「…」

この言葉は、さすがに重く、ずしんときました。
私は、その本音に全く応えられなくなってしまったのです。


上司と部下が、部下のキャリアについて話す…

上司が部下のキャリアの支援者になる…

さっきまで語っていた自論が、何だか遠ざかっていく気がしたのです。

キャリアとは、上司と話し合うべきものなのでしょうか?


もし、上司が答えを与える人ではなく
経験を聴く伴走者だとしたら――

「聴く」とは、別の姿を持つのかもしれません。

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