異業種でも技術組織の悩みは驚くほど似ている|技術部と人事の間に橋をかける

技術者文化

技術の話はできないと思っていた

前職、研究管理部署で人材育成施策を担当していた頃の話です。
ある日、上司から異業種交流会があるから参加してくるように言われました。

参加企業一覧を見ると、競合ではないものの、同じ製造業の会社がずらり。
「参加したところで、何を話すんだろう?」
正直、そう思っていました。

私の所属する研究開発部門では、
次世代製品の開発や新規事業開発を扱っているのです。
技術の話なんてできる訳がありません。

主催者挨拶の後、基調講演が始まりました。
テーマは研究開発組織づくり、人材育成。
(あ、そうそう。こういう話を聞きたかったんだよ)
と膝を打ち、質問が頭に浮かびました。

でも次の瞬間。
(待てよ…質問なんかしたら、ウチの課題がバレるじゃないか…)
私は手を挙げられませんでした。

すると、一人の参加者が質問。
(ん? それ、俺も聞きたかったことだ…)
さらに別の人、また別の人。
気づけば次々と手が挙がっています。

皆、自社の課題を話題に、普通に意見交換しているんです。
私は少し、あっけにとられていました。

その後のグループワークで、思わず聞いてしまいました。
「あの…皆さん、随分オープンなんですね。
 うち、コンプラにうるさいんで、ちょっと驚いてしまって…」

すると司会の方が笑って言いました。
「さっきの質問のこと?
 別に技術の秘密を話している訳じゃないからね。
 どこの会社の技術部でも抱える話でしょう?
 お互いGive & Takeですよ」

「……」

言われてみれば、その通りでした。
新規事業のテーマも、開発中の技術も、誰も話していません。
話題になっていたのは、

人材育成、組織運営、管理職の在り方、技術伝承

そんな話ばかり。

(あれ…?)私は少し混乱していました。
もしかすると、会社ごとの話ではないのかもしれない。

なぜ話が成立したのか

業界も、作っている製品も、その技術も、会社の規模も違う。
唯一同じなのは、技術部門の運営企画部署から参加している
ということだけなのです。

でも、話している内容は不思議なほど通じるんです。

  • 「どういう研修カリキュラムがウケたか」
  • 「どうやって無駄な会議を減らしたか」
  • 「管理職候補をどう育てるか」
  • 「職人的なコア技術をどう伝承するか」

そんな話題だけで、延々と議論している。

隅の方では名刺交換しながら、
「今度、貴社を訪問し、意見交換させてもらえませんか」
そんな会話まで始まっています。

若手担当者から部長級まで、皆が熱く語り合っているんです。

そう…課題として見えている景色が、一緒だったのです。

人事部も技術部も必死

人事部も、技術部も、どちらも会社を良くしようと必死です。
人事は、人づくりを通じて会社を強くしたい。
技術部は、技術を通じて会社の未来をつくりたい。

人的資本経営が問われるようになり、企業は人づくりを強化し、
その育成計画を開示することが求められています。

人事部は自社が求める人材像を明確化し、「教育カリキュラム」を設定。
「技術部の人にもコミュ力を上げて欲しいよね」と思う。
だから、

「1on1をやりましょう」
「Willを言語化しましょう」
「部門横断で動きましょう」

こうした施策を届けてみる。

だけれど、技術部からの評判は良くない。

「1on1と言うけれど、何を話せばいいのか?」
「部下のWillを聴いたところで、叶えてやれる訳ではないし…」
「上を通さないと、責任がとれない」

一方の技術部。
現業を推進するための技術研修は、自分たちで計画し、受講します。
なにせ技術の進展は早く、追いつかねばならないから…

人事からはコミュ力を上げろと言われますが、
イノベーション創出だの、新規事業創出だのといった要望もあり、
そちらの方が死活問題なんです。

ただ、何を学べばイノベーションが生まれるのか、
誰も正解を持っていない。

これは会社の将来を握る重要な話なので、
外部コンサルに聴く訳にもいかない…

人事部も技術部も、それぞれの使命を果たそうと必死なのに、
何だか話が噛み合わないのです。

話題が「キャリア形成」ともなれば、
人事部と技術部のズレは、より一層顕著になってきます。

でも言葉が違う

キャリアを例にとれば、人事は「キャリア自律」をキーワードとし、
社員一人ひとりに自主的なキャリア選択を求めます。
従来の技術領域に拘っていてはダメ。リスキリングしてDX推進せよと鼓舞します。

技術者はどうでしょう?
彼らには、その専門性で会社に貢献してきたという自負があります。
特定の製品に必要な技術を活かせる場所は、さほど多くはないのです1

別に会社に魂売ってしまった訳ではないので、
「主体的であれ」、「変化に適応せよ」と言われると
なんだかモヤモヤしてしまう。

私は元技術者であり、後に企画部門、人材育成部門に異動しました。
キャリア研修で、「自律的なキャリア形成を!」と言ったとき、
元部署の技術者が、微妙な顔をしていたことを、今でもよく思い出します。

そう、どちらが正しいとか、間違っているということではないのです。

果たすべき役割の違いにより、キャリア観に違いがあるのです。

技術部と人事の間に橋をかける

私は後に、その違和感を整理しようとしました。
そこで参考になったのが、
職業興味を整理するRIASECという考え方でした(ココ)。

製造系の技術者は、R(現実的)で、I(研究的)。
人事系の方は、S(社会的)で、E(企業的)な方が多いと言われます。
隣り合う特性は近く、向かい合った特性は遠いと言われます。

会社という組織には、これら多種多様な特性を持った方がおられます。
慣習的なことを重視し、コツコツと業務を進める方。
芸術的なセンスを発揮し、人を魅了することを得意とする方。
色々な方々が集まって、企業の社会的使命を果たしているのだと思います。

特性が異なれば、
同じ言葉を使っていても、それが意味するものは異なり、
大切にしている価値観も異なります。

重要なことは、お互いの特性を理解した上で、
施策をアレンジすることではないでしょうか?

先の異業種交流会で話し合われていたことは、
この違いを言語化し、施策をアレンジしていくことだったのです。

技術部も、人事部も、どちらも会社の未来を真剣に考えている。
だからこそ、噛み合わないのは、もったいない。
私は、その間に橋をかけるお手伝いをしたいと思っています。


さらに詳しく知りたい方は、以下のコラムも参考になるかもしれません。

  1. 昨今エンジニアと言うと、システムエンジア(IT技術者)を思い浮かべる方が多いと思います。彼らは、システマティックなものの考え方と、プログラミング言語という専門性を有しています。これらのスキルは汎用性があるため、他業界でも活躍できる可能性が高いのです。これに対し、特定の製品に必要なハード技術は、その適用範囲が狭いのです。そのため、IT技術者と製造系技術者では、キャリア観にも違いが生まれやすいのです。 ↩︎

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