キャリアコンサルタントの養成講座で、
こんな出来事がありました。
ロールプレイとよばれる面談の練習です。
私は相談者の話を聴きながら、
気になる点をいくつか質問しました。
すると指導していた先生が、
少し驚いた顔でこう言いました。
「まあ!
あなた、人に興味があるんですか?」
私は逆に驚きました。
「え?
問題を解決するのが技術者でしょう?」
私は技術者出身です。
技術者は、
目の前の現象を観察し、
原因を考え、
仮説を立て、
検証する。
そうやって問題を解決してきました。
そのため、
人の話を聴くときも
- 何が起きているのか
- 原因は何か
を考えてしまいます。
しかしカウンセリングの世界では、
少し違う考え方をします。
問題を解決することよりも、
「その人がどう感じているか」
を聴くことが大切だと言われるのです。
このとき私は、あることに気づきました。
技術者は、人よりも問題を見ている。
そしてそれは決して珍しいことではありません。
むしろ技術者として自然な思考なのです。
実はこの思考の違いが、
技術系マネージャーが
- 1on1
- キャリア面談
に苦労する理由の一つになっています。
ここでは、技術者のコミュニケーションの特徴の観点から、
その理由を考えてみたいと思います。
技術者のコミュニケーションの特徴
① 報連相が染みついている
技術系マネージャーと部下のコミュニケーションは、
ホウレンソウに代表されるような判断の繰り返しです。
マネージャーは部下からの 報告 を受け、次の行動を考える。
連絡 は途中経過の把握。
相談 は部下の考えを聞き、上司の判断を示す場です。
仕事が早い上司ほど、
「これは報告か?」
「相談か?」
を瞬時に判断し、次の行動を考えます。
つまり、
業務コミュニケーション=判断
なのです。
そのため、人事の方から
「1on1は業務管理の時間ではありません。
部下の気持ちを聴いてください。」
と言われても、なかなか理解できません。
② 結論から話す習慣がある
私は前職で、技術系役員へ報告する場面が多くありました。
ピリピリした役員に内容を理解してもらうためには、
まず結論を示す必要があります。
例えばこうです。
「本日は〇〇の件でご報告に伺いました。
これから説明する内容でよいか、ご判断ください。」
そして
- 提案の要旨(結論)
- そこに至る理由
を説明します。
これは技術者に限らないかもしれませんが、
多くの技術組織では
結論 → 理由
の順で話す文化があります。
そのため、
「1on1は結論を出す場ではありません」
と言われても、
どう振る舞えばよいのか分からないのです。
③ 感情に触れない習慣がある
かつての技術職場では、
技術的な議論が白熱し、言い争いになることもありました。
私が入社した頃は、
激高した上司が机を叩き、怒鳴ることもありました。
しかし今はコンプライアンス重視の時代です。
感情を強く表すことは
評価にも影響する可能性があります。
その結果、職場では
感情を表に出さない
ことが習慣になっていきました。
そのため
「1on1では部下の感情に寄り添いましょう」
と言われても、
上司も部下も戸惑ってしまうのです。
上司と部下のすれ違い
このような特徴を持つ上司と部下が
「普段思っていることを自由に話してください」
と言われて1on1を行うと、どうなるでしょうか。
① 何を話せばよいのか分からない
(上司)
どのように話を切り出せばよいのか分からない。
(部下)
何でも話していいと言われたけれど、何を話せばいいのか分からない。
(上司)
感情を聞いてパワハラになったら嫌だなあ。
(部下)
「どう感じた?」と聞かれても困る。
② 話しても意味がないのではないか
(上司)
要望を聞いたら対応しなければならない。
(部下)
何も変わらないなら言っても意味がない。
(上司)
業務の進捗確認の方が楽だ。
(部下)
業務の話の方が楽だ。
結果として、1on1は
沈黙か、業務確認
になりがちなのです。
根本的な原因
このように、技術系部署の1on1が難しい背景には
技術者特有のコミュニケーション習慣があります。
しかし私は、それだけが原因ではないと考えています。
多くの技術者は
「聴いてもらって嬉しかった」
という経験をあまりしていません。
だから
対話の価値を実感できていない
のです。
しかし技術者は、
効果が実感できれば
全力で改善に取り組める人たち
でもあります。
1on1を支援する取り組み
私が支援を行う場合、
まず次のようなプロセスから始めます。
- 技術者一人ひとりと面談を行う
- 職場のコミュニケーション課題を整理する
- 対話の価値を実感してもらう
その後、
- 上司が部下の本音を引き出す方法
- 部下が上司に思いを伝える方法
について実践的な支援を行います。
これを繰り返すことで、
1on1の効果を少しずつ実感できるようになります。
もちろん職場の文化や状況は様々です。
まずは
- 職場の課題
- コミュニケーションの状況
を丁寧にお聴きしながら、
具体的な改善プロセスを提案していきます。
技術者向け1on1の実践に関心のある方は、
以下のページもご参照ください。
次回予告
技術者が1on1に苦労するのは、
能力の問題ではありません。
思考の習慣の違いなのです。
技術者は
人よりも問題を見るように訓練されています。
次回は、この
「技術者の思考の特徴」
について整理してみたいと思います。
技術者文化シリーズ


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