キャリアチェンジを考える際、よく使われるフレームワークに、Will-Can-Mustがあります、やりたくて(Will)、出来て(Can)、求められる(Must)仕事ならば、適職であると考えます(右図の☆)。私も前職でのキャリア研修において、よく用いておりました。研究部署でしたので、各人はそれなりの専門性を持っており、過去の経験から様々な知識を身に付けていました。Canの項目については皆さんスラスラと書けるのです。
次にMust。これも比較的直ぐに書けます。方針管理にはウルサイ会社でしたので、自部署に求められていること、そして今年度、個々人に求められていることは明確でした。Mustに応えられていたかは別として、恰好の良い言葉で”使命”を書いていました。中にはSDGsに照らし、「自身のテーマはSDGsの目標〇〇を解決することだ!」と高い志を掲げていた方もいました。
問題はWill。いざ「あなたの夢を書いてください!」というと、途端に手が止まるのです。そして長い沈黙の後、「夢なんて、大それたこと、私には無いです」とか、「仕事をするのに、個人の夢なんて必要ですか?」という言葉が返ってきます。「う~ん、そうですねえ…じゃあ、入社して間もない頃、会社で実現したかったことはありませんか?」などと譲歩してみても、返事はありません。しまいには「私は会社から求められること(Must)に対して、必死に技術(Can)を磨いてきた。それなのに、夢は何ですか?なんて…Willがなければダメなんですか!?」と言われてしまいました(ココ)。
このような経験は、1度や2度ではありません。語気の強さに違いはあれど、「Willを求めるキャリア研修講師」に向けられる視線は冷ややかなものでした。Willに着火すべく「百年に一度の大改革のときだ!」と煽ってみても、効果は無かったのです。
それは前の職場に限ったことだと思っておりましたが、いざフリーランスになってみて、気が付いたのは「Willが明確な人って、とても少ない」ということ。学生さんもアラサーの皆さんも声高にWillを語ることはありません。それどころか転職を望んでいる人でさえ、今の職場から離れたいという気持ちはあっても、次に何をやりたいのかは曖昧という方もおられるのです。
ずっとその理由を考えていたのですが、私なりに導き出した結論は…
キャリアアンカーが、保証・安定(SE)や生活様式(LS)の方は、Willを書くことを躊躇っているだけで、Willが無い訳ではない。
ということです。ここでキャリアアンカーについておさらいしてみると、エドガー・シャインは、人は誰しも、能力・動機・価値観に関する自己イメージを持っており、それをキャリアアンカーと定義しました。キャリアアンカーには以下の8つがあります。それぞれのアンカーを持った方が、Willを言語化しようとしたとき、どんな意識が働くのか想像してみると…
- 専門・職能別能力(TF)の人:私にとっては、Canを活かせることが最重要なのです。Canを高めた先にあるものが私のWillです。
- 経営管理能力(GM)の人:私にとっては、Mustをしっかり理解し、組織をマネジメントして高い目標を達成することが大事なのです。”会社を経営して、高い年収を得るのが私のWillになります。
- 自律・独立(AU)の人:私は独立して、自由になりたいのです。それがWillなのです。
- 保障・安心(SE)の人:私が望んでいるのは、雇用の安定であり、長期に渡って勤続できることです。けれども、それをWillとして書くと、夢が無く、やる気のない奴だと思われちゃうかもしれないですね。だからWillを明確化するのは止めておきます。
- 起業家的創造性(EC)の人:リスクを取りつつも、自分で会社を創るのが、私のWillです。
- 奉仕・社会貢献(SV)の人:社会から求められていること(Must)をしっかりと受け止め、人々に喜んでもらうことが、私のWillになります。
- 純粋挑戦(CH)の人:解決不可能と思われている問題を解決すること、強敵に打ち勝つことが私のWillです。
- 生活様式(LS)の人:自分自身のニーズ、家族のニーズ、キャリアからの要請のバランスをとり、それらを統合することが私のWillです。しかし統合する対象は私だけではないので、私のキャリアのWillとして書くのは、ちょっと違うかもしれません。
どうでしょう? 「あなたのWillは何?」と問われて、すぐ書ける人と、なかなか書けない人が居るのは、キャリアアンカーが異なるからであり、SE、LSの方もWillが無い訳ではないと思うのです。効率が重視される社会において、自身の価値観を明確にすることを躊躇っているだけではないでしょうか? 特に最近は将来に対する不安感が高まっていますので、保証・安心(SE)を求める人は増え、共働き世帯(死語?!)が当たり前の世の中では、生活様式(LS)を重視する方は増えていると思います。そんな中、Willを明確にすることを躊躇う人が増えているのは、自然なことでしょう。
私は、専門・職能別能力(TF)と奉仕・社会貢献(SV)が強い人なので、「Willなんて、書けて当たり前!」と思っていましたが、「Willを明確にすることをヨシとしない人」もおられること、ようやく腹落ちしました。今まで私から「アナタのWillは何!?」と問われ、不快な思いをされた皆さま、ごめんなさい。心を入れ替えてキャリアカウンセリングに向かいます。□
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