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  3. 能力要件の設定で満足してはいけません ~新しい環境下で、どのように能力開発するか?~

私は元技術者。技術企画部署を経て、人材育成に従事した経験を持ちます。その経歴から技術者に必要な説得の3要素は、”知情意”の観点であると体験的に学んできました(ココ)。

人材育成を担当していたとき「担当部署の社員に研修を仕掛ける」という立場から、「能力要件」なるものを設定してきました。いわゆる、〇〇性とか〇〇力というものであり、職位ごとの業務を遂行するために必要な能力を棚卸したのです。その上で、知:テクニカルスキル、情:ヒューマンスキル、意:コンセプチュアルスキルに分類し、何を学ぶべきか明示しました。いわゆるカッツモデルですね。

カッツモデル(Robert Katz, 1955)

まとめた結果については、前職部署に置いてきたので、ここでは示せません。正解は無いにせよ、やり切った感はあるのですが、今思うと明らかに不十分でした。何故でしょう? 能力要件の洗い出しは、研修を仕掛けるための前準備に過ぎなかったからです。つまり、その能力を上げるための手段を具体化し実施して、その効果を測定するところまでやらないと、PDCAのサイクルは回らないのです。

しかし当時は会社業績も思わしくなく、じきにコロナ禍に突入。教育予算は削減されました。リアル研修は全面的に停止。各種研修は社外から購入した、eラーニングのコンテンツに置き換わっていきました。それは当社に限ったことでなく、多くの会社がそうであったでしょう。厚生労働省の能力開発基本調査(令和4年度)を見ても、企業が従業員1人当たりにかけたOff-JT(いわゆる研修)費用(同資料の図4)は令和に入って右肩下がり。自己啓発支援に支出した費用も低水準で推移しています(図5)。

言うまでもないことですが、社員教育は会社責任です。業務を遂行するために必要な能力の開発は、業務内で行われるべきです。幸いリアル研修が主だった頃は、どんなに業務が忙しくても、業務とは切り離されたところで研修が行われていました(Off-JTは、Off The Job Trainingの意)。しかしオンデマンドという名の下に、強制的に業務をOffできなくなるとどうなるか? 皆さん、目先の業績を上げるためにJobに走ります。

もう一つの柱である OJT(On The Job Training)を取り巻く状況も変化しました。在宅勤務、リモート環境下では、従来のようなOJTは出来ないのです。コミュニケーションのスタイルも大きく変わりました。新たな環境の下で「情を動かす」には、新たな方法が必要です。また、「大義を通す」には経営理念の浸透が必要ですが、これがとても伝わりにくい状況。多様性の尊重と一体感を両立させるためには、相当な工夫と努力が必要です。

Off-JT、OJTの在り方が激変する中、社員に求められたのは、第三の柱”自己啓発・自己研鑽”です。「就業時間外に自分で勉強せよ」ですね。自律性・自立性の高い方は学びを深めていますが、私の実感としては、学び方が分からないという人がとても多く、二極化が進んでしまったように思います。他国に比べても自己研鑽にかける時間は圧倒的に少ないのです(例えば、パーソル総合研究所「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」、「社外の学習・自己啓発」の項を参照下さい)。

このように教育の3つの柱である、OJT、Off-JT、自己啓発・自己研鑽を取り巻く状況は大きく変化しているので、企業側は「能力要件」を提示しただけでは不十分。新しい環境下でそれらの能力を高めるための具体的方法が必要なのです。

ただ、お叱りを受けることを覚悟で言いますが、「企業内の教育に、それを求めるのは無理なのではないか?」と、私は考えています。働き方改革が進み、残業時間が削減されても、仕事量自体は減らない…そんな状況で、会社は教育に時間を掛けてくれるでしょうか?

今どき教育機会は自ら獲得するしかないと私は思います。副業は自身の能力を棚卸し、それに磨きをかけて価値化する機会。実践的な自己研鑽の場に他なりません。副業とまでいかずとも、異業種交流会などで社外に出ていくことは、自己成長の場に他なりません。私はキャリアコンサルタントとして、そのヒントを提供できればと考えています。□

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