技術系企業の人事担当者や部門長から、よく聞く言葉があります。
「優秀な技術者ほど、マネージャーになりたがらない」
私が技術管理部署にいた頃も、同じ話を何度も聞きました。
ある部長はこう言いました。
「後継マネージャーが育たないんだよ」
しかしその言葉を聞きながら、私は別のことを感じていました。
「マネージャーの仕事が、とても大変そうだからではないだろうか」
実際、部長や室長の仕事ぶりを見ていると、
会議、調整、トラブル対応に追われ、
技術の話をしている時間はほとんどありません。
それを見ている若手技術者が、
「自分もあの仕事をしたい」と思うでしょうか。
ここでは、技術者がマネジメントをためらう理由を
いくつかの観点から整理してみたいと思います。
① 専門技術から離れることへの不安
技術者は、自身の専門性を活かすことで
会社に貢献してきたという自負があります。
エドガー・シャインのキャリアアンカーで言えば
「専門・職能別能力」です。
自分が得意とする専門分野で能力を発揮することに
満足感を覚える人たちなのです。
そのため、マネージャーになることで
専門性を一旦横に置くという判断は、
想像以上に大きな決断になります。
「マネージャーになっても専門性は必要ですよね。
専門性を捨てるわけではないでしょう」
そう思われるかもしれません。
しかし技術の世界は日進月歩です。
今日も明日も、業界動向に目を配り、
試作や実験を繰り返しているからこそ
専門性は維持されています。
一度その世界から離れたら
もう戻れないのではないか。
そう考えるのは、ごく自然なことなのです。
私自身、40代前半で研究の実務から
管理部署へ異動しました。
そのときの精神的なダメージは
とても大きなものでした。
大学院で高めた専門技術で会社に貢献しよう。
お世話になってきた学会に恩返しをしよう。
そんな思いを封印せざるを得なくなったからです。
所属していた二つの学会を退会するまでには、
その後何年もかかりました。
技術部門のマネージャーになることは
管理部署への異動とは異なるでしょう。
しかし、一線から離れることが
技術者にとって大きなリスクであることは
想像していただけるのではないでしょうか。
② 他人を動かす経験が少ない
専門性が高い技術分野ほど、
業務は属人的になりがちです。
職人的と言ってもよいでしょう。
師弟関係のような形で
技術が伝承されていきます。
そのため、
「40歳を過ぎるまで、他人を動かした経験がほとんどない」
という人も珍しくありません。
そんなAさんがマネージャー昇格研修を受けたときの
エピソードは象徴的です。
彼には同期のBさんがいました。
Bさんも技術系大学院出身でしたが、
商品開発部に配属されていました。
昇格研修のグループディスカッションで
同じ班になったときのことです。
Bさんは巧みな話術で議論をリードし、
他の参加者からも意見を引き出していました。
人を動かすことにとても慣れていたのです。
それもそのはず。
Bさんには入社2年目から部下が付き、
現在は20名の部下を抱えていました。
そんな姿を見たAさんは、
自分がマネージャーとして
どう振る舞えばよいのか分からなくなってしまったそうです。
③ 失敗について語りにくい
「失敗なくして成功なし」
よく聞く言葉です。
技術者は試行錯誤を繰り返します。
しかし、そのすべてを上長に報告するわけではありません。
考え方が間違っていた。
前提条件が抜けていた。
もっと効率的な方法があった。
こうした小さな失敗は日常茶飯事です。
ところがマネージャーになると
部下の仕事について
上長に報告する立場になります。
部下に失敗報告を細かく求めることに
抵抗を感じる人も少なくありません。
「失敗が人を育てる」と
頭では分かっていても、
「失敗させられない」
と感じてしまうのです。
大きな失敗になったとき、
監督責任が問われるからです。
自分は数多くの失敗をしてきたのに、
それを語る機会はなく、
成功体験だけを語るようになっている。
そんな自分自身に対して
何とも言えない感覚を抱いてしまうのです。
技術マネージャー育成が難しい理由
このように技術者は
- 専門技術に戻れなくなることを恐れ
- 他人を動かす経験が少なく
- 失敗をどう扱えばよいか悩んでいる
ことがあります。
自信が持てないまま
嫌々マネージャーを務めたとしても
良い結果は出ません。
部下はそれを見ていますから、
マネージャーという役割が
「罰ゲーム」に見えてしまうことさえあります。
技術マネージャー育成を支援する取り組み
技術マネージャーの育成が難しい背景には、
個人の資質だけではなく
組織の構造的な問題も潜んでいます。
当事務所では、
技術者の思いを確かめながら
組織文化の課題も含めた支援を行っています。
技術マネージャーの育成に関心のある方は、
以下のページもご参照ください。
→ 法人ページへのリンク
次回予告
技術マネージャー育成の難しさは、
キャリアだけの問題ではありません。
多くの技術系マネージャーは
「部下との対話」にも苦労しています。
次回は
「技術系マネージャーが1on1やキャリア面談に苦労する理由」
について考えてみたいと思います。
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技術者文化シリーズ


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