― 自律的キャリアと言われたときの違和感
終身雇用崩壊の文脈で、
自律的なキャリア形成の必要性が問われています。
私は技術管理部署で、人材育成やキャリア支援を担当してきました。
「自律的なキャリアを!」
という言葉は、日頃からよく用いていました。
技術者出身の私としては、発破をかけるようなつもりでした。
しかし、それを聞いた技術者の皆さんが、
どことなく不愉快そうな顔をされたことがあります。
今でもよく覚えています。
なぜでしょうか。
ここではいくつかの切り口から、
「技術者がキャリアを語らない理由」を考えてみます。
① 技術者にとってキャリアとは業務だから
キャリアとは、
過去から現在、そして未来に至るまでの
その人の人生の歩みです。
技術者は現実主義の方が多く、
過去の事象を分析し、問題点を洗い出し、
そこから未来を生み出していくことに長けた人たちです。
すなわちキャリアと言ったとき、
その重心は 過去から現在 にあります。
彼らにとってのキャリアとは、
会社業務の中で自分の役割を果たしてきた履歴なのです。
これは受け身に聞こえるかもしれません。
「夢に向かって未来を切り拓く情熱的な技術者」
というイメージとは少し異なるでしょう。
しかし技術者の原動力は、
「プロジェクトX」を見たときのような感動です。
昭和の技術者が居酒屋で語り合っていた、
技術への熱い思いです。
ただし今は、そのような場面は多くありません。
技術の方向性を巡って口論になる、
あるいは喧嘩になるような場面も、
会社ではほとんど見られなくなりました。
そうした環境の中で、
技術者のキャリアとは
過去の業務の積み重ね
として理解されることが多いのです。
しかもその業務は、
自分だけで決めてきたものではありません。
会社や組織の中で与えられた役割でもあります。
そのため
「自分を律し、未来のキャリアを切り拓け」
と言われると、
どこかモヤモヤしてしまうのでしょう。
② 自分のスキルが他社で通用するのか分からない
近年の技術分野は、
ますます細分化・高度化しています。
多くの技術者は
自社製品の開発に特化した
非常にニッチな技術を担っています。
そのため
「ポータブルスキルを棚卸ししてください」
と言われると、
途端に表情が曇ることがあります。
「その技術の本質的な価値は何か」
「あなたはその技術のどこを支えているのか」
と問われると、
うまく答えられない。
まして
「その技術は他社でも使えますか」
と問われると、
「この会社で、この技術を続けていく道を探そう」
と考えてしまう。
本来は
「スキルの棚卸しによって
未来の選択肢を広げてもらう」
という取り組みだったはずなのに、
技術者はむしろ萎縮してしまうのです。
③ 自己開示に慣れていない
私はカウンセリングを学んだとき、
「事実関係よりも、相談者の感情を聴くこと」
を大切にするよう教わりました。
今でも重要な考え方だと思っています。
しかしミドルシニアの技術者の相談にのると、
語られるのは多くの場合、
事実関係とその分析
です。
「そのとき、どう感じましたか」
と尋ねても、
「それはこういうことだと思う」
という説明が返ってきます。
客観的な事実を整理し、
論理的に説明すること。
それが会社業務で求められてきた役割だからです。
そのためキャリア面談で
「あなたはどうしたいですか」
と問われると、
とても困ってしまうのです。
技術者のキャリア支援が難しい理由
このように技術者は
- キャリアを過去の業務の積み重ねとして理解し
- 自分のスキルが他社で通用するか自信を持てず
- 自分の感情を言葉にすることにも慣れていない
という特徴を持っていることがあります。
そのため、人事の皆さんから
「キャリアを棚卸しして
自律的に未来を選択してください」
と言われると、
どこかモヤモヤしてしまうのです。
私はどちらが正しいと言いたいわけではありません。
技術者のキャリア支援が難しい背景には、
人事施策を講じる側と
技術者の思考様式が
必ずしも噛み合っていない
という事情があるのです。
技術者のキャリア対話を支援する取り組み
技術者のキャリア対話は、
一般的なキャリア支援の枠組みだけでは
うまく進まないことがあります。
当事務所では、
技術者の思考の特徴を踏まえた
キャリア対話支援を行っています。
技術者育成に関心のある方は、
以下のページもご参照ください。
技術者文化シリーズ

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