大学院を出た技術系研究者が民間企業の研究所に入り、管理職になるまでの間、取り組むことになる大テーマは3~4つではないでしょうか? 新しいテーマに取組み、その領域の専門家になるには4年程度は掛かると私は考えています。
大学院での研究と同じ内容を扱う人は極めて稀です。今どき、研究内容をそのまま活かそうとされる方は起業していますからね… 大抵の人は工学者としての基本的知見を活かしながら、新たな研究領域に身を投じていくのです。24歳で就職し、4年×3~4テーマで36~40歳。その中で成果を出せた人は管理職になっていくようです。
私の場合、そのタイミングで会社合併があり、組合活動に身を投じたので、本業ではさっぱり成果を上げることが出来ませんでした。まあ、かなりイレギュラーな経歴なのですが、40代前半な極めて重要なタイミングで、企画職に転身したのです。これについては全く後悔していませんが、技術者にとってこの時期は極めて重要であり、上手く転身できた私は幸運でした。
マネージャーとして上手く切り替えられる人、マネージャーになってからも一技術者として淡々と成果を上げる人もいました。しかし大半は技術者としての高原期を迎えます。技術一筋でやってきた方、余程突き抜けておられる方はいいのですが、そんな方は多くはありません。同一分野の現役研究者として、定年まで勤め上げるのは容易でありません。誰しも「紛れ散らばる星」として忘れ去られたくはないでしょう。
そう考えると、35~40歳を迎える前に、回りの人を上手く巻き込み、チームとして成果を上げる経験を積んでおいた方が良いと、私は思います。幸い事業部の技術者は30代前半から小グループのリーダーを経験しているので、35~40歳には人を動かす術を一通り身に付けています。しかし研究部門の技術系研究者はそのような機会が乏しく、35~40歳になってから、
- マネジメントに向いていないのかも?
- 一人では目覚ましい成果を上げられ無いかも?
とか気付くんです。これって、かなり残酷ですよね。レビンソンの発達段階説を引き合いに出すまでもなく、誰にも「人生半ばの過渡期(40~45歳)」が来るのです。
この段階を乗り切るためには、それまでに何をしておけば良いのでしょう? 自身の可能性を狭めることなく、むしろ広げるようにするために、30~35歳頃を如何に過ごすべきか? 私は決して上手く過ごせた訳ではなく、人それぞれ個別の事情があるので、一概には言えませんが、あえてお伝えするなら、以下のようなアドバイスを送りたいと思います。
- 【逆算思考】 入社後2テーマくらいこなし、企業研究の作法のようなものは身に付けてきたと思います。自ら手を動かすことが出来るテーマは、”後2つ”と認識しましょう。その意識が、その後のテーマに向き合う姿勢に大きく影響します。後2テーマで何を成したいのか、逆算思考でイメージしましょう。
- 【コンセプトの腹落ち】 これまでは会社方針に基づき、上司が指示した内容に沿って手を動かしてきたと思いますが、批判的思考法(クリティカルシンキング)で、そのテーマの意義・コンセプトをブラッシアップしましょう。技術の専門性が高まる中、会社上層部から与えられたものでは不十分であり、ご自身が納得できないなら軌道修正しましょう。視座を上げる訓練となります。
- 【社外への適度な発信と情報収集】 社外の動きも積極的に取りに行きましょう。これまで取り組んできたテーマについては、「何をどこまで外で話してもいいのか?」分からなかったと思います。しかしながら、「出さなければ入ってこない」のも事実。さじ加減を工夫して適度に発信し、外の情報を得ましょう。これが出来るか出来ないかで、マネージャーになったとき大きな差がつきます。人脈にも差がつきます。
- 【他人にお願いする訓練】 後輩が居れば、その人に仕事を渡す練習をしましょう。就職氷河期の”上の世代”は、職場に後輩が来ずに、何でも自分でやらざるを得なくなりました。ユーティリティプレイヤーとして重宝がられる反面、管理職になるための訓練が出来ません。長期的には大きなハンデとなるので、ご自身で意識して、他人にお願いする訓練をしましょう。
- 【職人技で囲わない】 ご自身しか出来ないスキルを囲い込むことで、存在意義をアピールする方もいますが、私は危険だと思います。そのスキルが会社にとって重要ならば、むしろ汎用化・一般化して、誰でも出来るようにすべきだと私は考えます。その方が貴方の評価にもつながるのではないでしょうか?
技術系研究者にとって、30~35歳はとても重要な時期。上記の点を意識されてみてはいかがでしょうか?□