「ライフキャリア相談室こころ」では、企業で働く皆さまも対象としています。なぜなら私はモノづくり企業に27年間勤務していた経験があるからです。「社内では相談しにくいことについて、利害関係者ではない社外カウンセラーを上手く利用して下さい」とお伝えしています。
しかし、そのような方はどれくらい居るのでしょうか? ここでは、キャリコンの皆さんなら一度は勉強したであろう、厚生労働省の「能力開発基本調査」から読み解いてみたいと思います。本調査の目的は…
能力開発基本調査は、我が国の企業、事業所及び労働者の能力開発の実態を正社員・正社員以外別に明らかにし、職業能力開発行政に資することを目的とする。(出典:調査の概要)
となっています。調査項目は公開されている平成18年度以降、少しづつ増えていますが、キャリアコンサルタントが国家資格化された(2016年4月)翌年度の調査からは、「前年度にキャリアコンサルティングを受けた者」の割合が公表されています(令和5年度版では図89に相当)。この推移をまとめると以下のようになります。データは”正社員”と”正社員以外”に分けて公表されており、2018年度分からは両項目を合わせた”全体”の数値も掲載されています。

このグラフを見ると明らかなように、企業でキャリアコンサルティングを受けた者は1割ほどしかおらず、ほぼ横ばい。期間中の平均値は正社員で14.2%、正社員以外で6.4%と伸び悩んでいます。
下図にはキャリアコンサルタント登録者数の推移を示します。国家資格化された2016年度より右肩上がりに増加し、2024(令和6)年3月末日時点では7.3万人。2016年度の2.8倍にもなっています。

つまり、キャリアコンサルタントは2.8倍に増えたのに、企業内でキャリアコンサルティングを受けた人は増えていないのです! 「資格を取ったのに実践機会がない」という話は、我々キャリコン仲間の口癖のようになっていますが、企業内には資格を活用できていない方が沢山いるのです。
また、この少ない「キャリアコンサルティングを受けた者」が、誰に実施してもらったのか見てみましょう。同資料には「キャリアコンサルティングを実施する主な組織・機関」が掲載されています。(出典:令和5年度版 図90↓)。

7~8割の会社で「職場の上司・管理者」が、その責務を担っており、人事部が担うこともあるようです。この中にはキャリアコンサルタントも含まれているとは思いますが、基本的には有資格者ではありません。このうち、キャリコン有資格者がその責務を担っているのは●を付けた2項だけ。企業外が8.6~9.0%、企業内が5.5~5.6%ということになります。
つまり私が想定している、「社外コンサルタントを利用している企業人」は令和5年度データから…
正社員:キャリコン受けた人の割合(R5) 13.8% × 企業外で受けた人の割合(R5) 8.6% = 1.2%
正社員以外:キャリコン受けた人の割合(R5) 5.4% × 企業外で受けた人の割合(R5) 9.0% = 0.5%
一方、”企業内”キャリアコンサルタントの方の対象者は…
正社員:キャリコン受けた人の割合(R5) 13.8% × 企業内で受けた人の割合(R5) 5.6% = 0.8%
正社員以外:キャリコン受けた人の割合(R5) 5.4% × 企業内で受けた人の割合(R5) 5.5% = 0.3%
となります。残念ながら1%以下しか居ないんです! 職場の上司・監督者や人事部(非キャリコン)が担っているお仕事を、有資格者が担うようになれば、キャリコンの仕事は10倍以上になるのですが…1
さらにこの統計には、私にとって厳しい現実が載っています。「キャリアコンサルタントによる相談の利用の要望」です(出典:令和5年度版 図92↓)。

私は、社外でお金をいただいてコンサルティングをしていますが、「社外で、費用を負担してでも利用したい」という方は、0.8~1.7%しか居ない。「費用を負担することなく」なら受けたいが、「費用を負担してまでも」受けたいという方は、極めて少ないのです。
4割もの会社で、キャリアコンサルティングを行う仕組みがあっても(出典:令和5年度版 図37↓)、相談件数が少なく、効果が見えにくく、時間確保が難しい…と色々な問題点があるのです(出典:令和5年度版 図44↓)。しくみづくりはもとより、実効力ある運用が求められていることは言うまでもありません。


このように、現時点において私が想定している方は極めて少ないようですが、相談室の扉は開けておきたいと考えています。なぜなら社会は仕事を変え、仕事は社会を変えていく… 変わらないものなど無いからです。
みなさん、キャズム理論って、ご存じですか? イノベーションとなるような技術が普及するには、イノベーターと言われる2.5%の先駆者がその技術に触れ、アーリーアダプターと呼ばれる13.5%の新しい物好きの人がそれを始めることが必要。二つ合わせて16%となります(下図)。

有資格者によるキャリアコンサルティングを受けた人が16%(約6人に1人)を超えれば、キャリアコンサルティングは爆発的に広まると思われます。今は1%ですが、上司や人事が担っている仕事を有資格者がやれば10%。更に増えれば16%というキャズムを超えるのではないでしょうか? キャリアコンサルティングを爆発的に普及させるには、そんなシナリオが必要だと私は考えています。
誠に残念ですが、その他にも企業内でキャリアコンサルタントの活躍の場が増えていないことを示す情報2はあります。キャリコン有資格者の皆さん、この状況をどう捉えますか? どうやったら「専門家によるコンサルティングを受けた人」を増やし、キャズムを超えられるか? コメントいただけましたら幸いです。□
- 職場の上司・管理者によってキャリアコンサルティングがされている人たちは…
正社員:キャリコン受けた人の割合(R5) 13.8% × 上司・管理者から受けた人の割合(R5) 77.3% = 10.7%
正社員以外:キャリコン受けた人の割合(R5) 5.4% × 上司・管理者から受けた人の割合(R5) 71.1% = 3.8%
人事部から受けている人たちは…
正社員:キャリコン受けた人の割合(R5) 13.8% × 人事部から受けた人の割合(R5) 15.0% = 2.1%
正社員以外:キャリコン受けた人の割合(R5) 5.4% × 人事部から受けた人の割合(R5) 8.1%= 0.4%
となります。この領域を有資格者が担えるようにすることが急務です。 ↩︎ - 「キャリアコンサルティングを行うしくみの導入状況」(出典:令和5年度版 図37↑)の年次推移を図示すると下図のようになります。一見すると、増えているように見えますが、キャリアコンサルタントが国家資格化された2016年からの変化をみると、ほぼ横ばい。有資格者が増えても、しくみの導入が追いついていないのです。また「キャリアコンサルタントの導入状況」(令和5年度版 図45に相当)の年次推移を見ると下図のようになり、こちらも横ばいです。 ↩︎


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