このコラムでは、逐語録から相談者の微妙なニュアンスを感じ取ることの大切さについて述べます。 対象: 、所要:3分
キャリアコンサルタント受験生のロープレ勉強会に参加し、もうすぐ2年になります。自身が受験生のときに参加し始め、資格取得後も継続してきました。たくさんの方の貴重なお話、多様なご意見を聴かせていただき、有難うございます。
さてロープレ時、キャリアコンサルタントと相談者の組合せについては、出来るだけ同じようにならないようにします。しかしメンバーは限られていますので、同じ方のご相談内容を何度もオブザーブすることがあります。
「キャリアコンサルタントの〇〇です。今日はどんなご相談でお見えになりましたか?」と始まり、相談者の方が来談目的を語ります。「何かあったのですか?」と経験の再現を促していくのですが、その後の展開って都度違うんですよね。当たり前ですが…
展開が異なってくる理由は沢山あると思います。
- 相談者役は何度も同じ話をしているので、前回のロープレ後に内省が進み、語りたい経験や思いが変わってくる
- キャリアコンサルタントが伝え返す言葉が異なり、フォーカスされる経験が異なってくる
- キャリアコンサルタントの自己開示や独特な質問によって、同じ経験の背景にある、違った感情が語られる
- キャリアコンサルタントの性別、年齢によって、相談者の語りが変わってくる(同性、同世代、同業なら、分かるでしょ?として端折るし、そうでなければ丁寧に説明し、分かってもらおうとするものです)
私も異なる展開に唸ってしまうことが何度もありました。これは良いとか悪いとかでなく、カウンセリング自体がその場限りのダイナミックなものだということです。再現しようとしても再現できないデリケートなものであり、正に一期一会と言えるでしょう。
相談者から「今回の相談内容については、この勉強会で何度も語っていることなのですが、今日は全く違う展開になりました。自分では思ってもみなかった自己概念が現れてびっくりしました。」といった発言があることは、決して珍しいことではないのです。キャリアコンサルタントの関わり方によって全く違う展開になるのです。
さて、このカウンセリング内容を箇条書きでまとめてしまうと、どうなるでしょうか?
私は前職である企画職において、会議の議事録をたくさん書いてきました。議事録の鉄則は、以下であると私は考えていました。
- 箇条書きで表すこと
- 事実は事実、推測は推測と分かるように区別して書くこと
- 今後やることを明示すること
- (当たり前ですが、)感情的なことは書かないこと(笑)
しかし、このノリでカウンセリング内容をまとめようとすると、とても大事なことが抜け落ちてしまいます。自己概念の揺らぎは文脈(コンテキスト)や発言の細部に現れます。それは箇条書きではなく、逐語録でなくては読み取れないものだと私は思います。
私はこれに気付いてから、オブザーブの際のメモの仕方が全く変わりました。そこに書くのは出来事(事実関係や推測)ではなく、そこに現れた感情や特徴的な表現です。そして相談者の何が揺らいでいるか?ということです。ロープレ勉強会でのメモは、直ぐに破棄してしまうため、過去のメモがどうであったかは辿りようがないのですが、初期のころとは書き方が180度変わったことは確かでしょう。キャッチするアンテナの周波数帯域が変わったのです。
今のノリで会議の議事録を起こしたら、どうなるのか? 想像してみると…
- 部長は「会社方針だから」を連発。
- 「この計画を推進せよ」と部下に言っておきながら、全然腹落ちしていないな。笑いながら語っているが、決して楽しそうではない。
- 役員との方針の話し合いで何があったのか?
- 部長の何が揺らいでいるのか?
とか、書き起こしているかもしれません。そんなメモは議事録として、とても発行できませんがね。つくづく180度違う業界に転身したものだと、我ながら呆れてしまします。□