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  3. お化け屋敷に同行する ~再現したくない経験をあえて聴く~

経験代謝というカウンセリングスタイルにおいては、相談者の悩みを自己概念の揺らぎと捉え、揺らぎが生じた背景には経験があると考えます。よって始めに行うのは、”経験の再現”であり、相談者にそのシーンを語っていただきます。キャリアコンサルタントは、その風景を共に視て、そこで何が起きたのかを感じていきます。

しかしロープレ勉強会に参加していると受験生の方から、「経験の再現が浅く、どうしても表面的なことしか聴けない。そのせいか、相談者の何が揺らいでいるのか、よく分からないまま終わってしまうことが多い」と言われることがよくあります。ここでは何故そのようになってしまうのか、考えてみたいと思います。

悩みの背景にある経験を再現することに対し、相談者は少なからず抵抗を示します。何かしら嫌な経験をし、自己概念が揺らがされて相談しに来た訳ですが、その経験を語ることは、もう一度嫌な体験をすることです。喩えて言うなら、お化け屋敷に入って、嫌なものをもう一度見てくるようなものです。

またキャリアコンサルタントにとっても、相談者に経験を再現してもらうことには心理的な抵抗を引き起こします。余程なサディストでない限り、他人が嫌がることをしたいとは思わないものですよね。「こんな嫌な事、聴いてしまっていいのだろうか?」、「相談者に嫌な思いをさせないだろうか?」、「それによってキャリアコンサルタントの私が嫌われてしまうのではないだろうか?」と複雑な思いが駆け巡ります。心優しい人に限って、ブレーキが強くかかってしまい、表面的なことしか聴けないのです。

そういう方に対して、私は以下のようにお伝えしています。

  • 誰しも嫌な経験は追体験したくないものです。しかし、それを語っていただかないと、本質的な悩みの解決にはつながりません。それを促すことができるかが、キャリコンサルタントの腕の見せ所です。
  • 悩みのきっかけとなった経験を、自ら朗々と語る方もおりますが、心の琴線に触れるような経験に話が及ぶと、少なからず抵抗を示すものです。
  • だからと言って、「お化け屋敷に独りで入っていき、その経験を言葉にして語って下さい」ではダメです。事前に信頼関係を築き、「私も一緒にお化け屋敷に入ります。ずっと横に居ますから、心配しなくて大丈夫。」と態度で伝えましょう。
  • お化け屋敷に入ったら、相談者が見ている景色を語ってもらいましょう。相談者は不安がるかもしれませんが、大丈夫。貴方は懐中電灯を持っています。相談者の思いを聴きながら、共にお化けの正体を確かめましょう。
  • お化けの正体が確かめられたのなら、それにどう対処すべきか? 相談者自ら語ってもらいましょう。「もう怖くありませんね…」となったら、共にお化け屋敷から退出しましょう。

以前、ココココでお伝えした通り、相談者の内的世界に入っていくことには危険が伴います。カップの中にあるのはコーヒーであり、見通しはききませんし、飲んだら苦いのです。そんなコーヒーの海にどっぷり浸かった後、そこから出てこないといけないのです。

経験代謝の重要なプロセスである、”経験の再現”。「浅くしか聴けない」背景には、相談者およびキャリアコンサルタントの双方に心理的な抵抗感があることを、まず受容れましょう。その上で信頼関係を築き、共にお化け屋敷に入っていきましょう。その場に立ち会うことには、少なからず勇気が必要ですが、それこそがキャリアコンサルタントの専門性であると私は考えています。□

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