技術者のWell-beingとは?―PERMAHに基づく技術者の幸せ

技術者のキャリアデザイン

本記事では、ミドルシニア技術者のリアルな悩みを、PERMAHモデルを使ってどう整理し、どう改善できるのかを解説します。

なぜ今、技術者に Well-being が必要なのか?

40〜60代のミドルシニア技術者の方々と話していると、こんな声を本当によく耳にします。

  • 「新しい技術に適応し続けられるか不安だ」
  • 「管理職になるべきか、このまま技術でいくべきか…決めきれない」
  • 「若手育成の役割が増えたのに、自分自身の評価は下がった気がする」
  • 「会社に貢献している実感が持てない」
  • 「身体の疲れが抜けにくく、気力がわかない」

こうした“静かな悩み”を抱えながら働いている技術者は、決して少なくありません。実はこの背景には、「技術者の幸福=Well-being」に対する誤解と不足があります。

「技術者としての幸せ」は、結果として得られる地位財ではなく、「今ここをよく生きること(Well-being)であることが、ポジティブ心理学と技術者倫理の両面から明らかになっています。そのヒントとなるのが、ポジティブ心理学の代表的モデル PERMAH です。

「Well-being=ゆるい生き方」ではない

昨今、「Well-being」という言葉が“ゆるく、好きに生きる”といった文脈で誤用されがちです。

しかし、技術者倫理を提唱する札野教授の教えでは、

Well-beingとは「今ここをよく生きる」ことです。
決して”ゆるく生きる”ことではありません。
技術者の場合、それは高い規律意識をもって自らの役割を果たす “厳しい生き方” を示します。

技術者が社会に安全と安心を提供する存在である以上、そこには一定の規律性・職業倫理が不可欠だからです。

PERMAHモデルとは? ー技術者の幸福を構成する6つの要素

ポジティブ心理学の父・マーティン・セリグマン博士が提唱する「人間が幸福を感じる6構成要素」 を数値化したモデルです。23の質問に回答することで、以下の6要素が可視化されます。ここで問われるのは“内側の充実”。年収や肩書き、家族構成といった外的環境は一切関係ありません。

技術者のWell-beingは「6つの条件」の組み合わせで決まる

私自身、多くの技術者データを分析してきた中で、技術者の幸せ(Well-being)には一定のパターンがあることが見えてきました。技術・研究開発のプロセスに当てはめると、図のようになるのです。

より良い社会の実現に向けて

PERMAHの6要素は、技術開発のプロセスと驚くほど一致しています。上図に沿って、説明しましょう。

  • まずは、志向倫理的な知識・判断能力に基づいていることが前提。「善い社会を創っていくために何をしたらよいか」を常に考え、福利(Well-being)へ貢献していこうとする姿勢です。なんだかとても難しく聞こえますが、ほとんどの人は「より良い社会を実現しよう!」とし、研究開発に取組んでいます。その原点を再認識できれば良いのです。
  • 次に「社会に貢献できる、意味あるテーマ(M)にポジティブ(P)に取り組む」ことが肝要。彼らは「意味の無いこと」をするのを、心底嫌います。「好きな事ばかりやっているオタク」と揶揄されることもありますが、「専門技術を活かして社会に貢献する」ことを大切にしているのです。
  • 技術開発・研究が始まったのなら、「没頭(E)」できることが重要。マネージャーになりたがらない人が居るのは、「実務に没頭できなくなるから」です。
  • その結果、目標を「達成(A)」できたのなら、技術者として幸せなのです。

その過程において大切になってくるもの

上記のプロセスは、技術者でない人たちにも理解しやすいものでしょう。しかし、私が前職場にて調査した結果分かったことは、これだけではないのです。

技術者は、その研究プロセスにおいて、「良い人間関係を築いていくこと(R)」にも、大きな幸福感を感じている

「独りで没頭したい」という一方で、「仲間に理解してもらいたい」、「研究の意義(M)、成果(A)を分かち合いたい」と思っているのです。”一見して人付き合いが苦手そうな技術者が、技術の話になると熱く語り始めた!”なんてこと、私は幾度となく経験してきました。なんと愛すべき人たちでしょう! 人気番組「プロジェクトX」は「人と人のドラマ」です。

さらに「心身ともに健康であること(H)」も、技術者にとって大切な要素です。特に精神的な健康はとても重要。私は睡眠不足・疲労の蓄積・ストレス等によって、潰れてしまった方を多く見てきました。世界的なIT企業 Google が自己探求プログラムを開発し、個々の精神性を高め身心の健康を図って、圧倒的な成果を上げていることは、偶然ではありません(今知るべきは外か内か? ーGoogleは何故Insideに向かうのか?

6つの要素がバランスよく満たされると…

この6つの歯車が噛み合っている技術者は、年齢を重ねても “しなやかにキャリアを再構築” していきます。逆に、どれか1つが大きく欠けると、「急にキャリアの迷いが強まる」「自信が失われる」といった状態が起きやすくなります。

会社の中では、「意味ある研究テーマ」に巡り合えるとは限らず、「経営判断として中止になってしまうテーマ」も多いと思います。そのような逆境に耐えうる、レジリエンスも必要になってくるでしょう。

あなたのPERMAHはどれが不足?

PERMAHのどれが不足しているか? 簡単にチェックしてみましょう。例えば…

  • P:最近、ワクワクする瞬間がありましたか?
  • E:仕事で“没頭した”瞬間はありますか?
  • R:困ったときに相談できる技術仲間がいますか?

毎日、ちょっとだけ自問自答してみましょう。きっと一日が変わってきます。
→ 詳しくは以下を参照下さい 「PERMAHモデルによる主観的幸福度の向上

技術系部署は何をすれば良いのか?

技術系部署がPERMAHを活かす場合、「どの要素が弱っているか」を踏まえて施策を設計することが有効です。例えば、次のようなアプローチがあります。

  • P : ポジティブな考え方への転換
  • E : 集中できる時間の確保
  • R : 1on1面談、技術コミュニティの活性化
  • M:役割の再定義、テーマの社会的意義の共有
  • A : 成果の可視化・棚卸し支援
  • H : 勤務時間・メンタルケア
    など

重要なのは、「一律で同じ施策を打つ」ことではなく、部門や組織の状況に応じて最適化すること。技術者のWell-beingは、現場の文化や職種によって大きく変わるからです。

技術者の“これから”をどう描くか

ミドルシニア期の技術者は、キャリアの転換点に立たされます。ただ、それは “終わり” ではなく、
自分の強みを再構築し、役割を再創造するチャンス
でもあります。

PERMAHの観点で自分を見直すことは、その第一歩になるはずです。

もし、

  • 組織として技術者の働き方を改善したい
  • 自分自身のキャリアの棚卸しをしたい
  • 技術者としての役割を再定義したい

というニーズがあれば、ぜひご相談ください。データに基づいた分析と、技術者特有のキャリア課題に沿った支援をご提案します。

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