国家資格キャリアコンサルタントの面接試験口頭試問で問われる質問、「資格を取ったらどう活かしますか?」。これは必ず訊かれる質問であり、「将来展望」として採点されます。受験生の皆さんは事前に何度も練習するので、頭に刷り込まれています。その回答のポイントについてはココとココに示しましたが、実は資格取ってから、”じわじわ効いてくる質問(=悩ましい問題)”なんですよね。今回は私がそう思う理由について述べ、悩める有資格者の皆さまには、相談者目線への切替えが必要なことをお伝えします。
キャリコン資格を取得しようという人は、自身のキャリア形成について、とても真剣に考えている方が多いですね。こうしたいという夢(Will)があり、このようにすべきだという使命感(Must)を持ち、残るワンピースである、出来ること(Can)を埋めるため資格を取る!という考え方ですね(下図)。これはこれで素晴らしいことです。
Canを埋めるために、資格を取る!
しかし、資格を取得してしばらくすると、「あれ?資格を活かすことが出来ていないぞ…」となるのです。企業の人事や人材エージェント、公的支援機関、大学のキャリアセンターにお勤めの方はいいのですが、「今後、異動や転職をした先で資格を活かしたい」という方や、「副業やセカンドキャリアとして活かしたい」と考えている多くの方は、「あれ?どうやって資格を活かしたらいいんだろう?」、「面接試験で何と答えたんだっけ?」となるんです。なお、ここで「資格を活かす」とは、「面談の制度作りや、面談業務に携わること」とします。
理由の一つとして考えられるのは、「キャリコンは国家資格であるものの、他の多くの士業と異なり、業務独占資格では無いから」ですが、理由は他にもあると思います。次にその理由について考えてみましょう。
相談者が既に居るか否か?
企業の人事(面談業務がある人)や人材エージェント、公的支援機関、大学のキャリアセンター等にお勤めの方は、その方が資格取りたての方であるかどうかは関係なく、「相談を待ち望む方」が目の前に居る方です。場合によっては資格取得前から相談業務にあたっており、変わらずに仕事を続けている方です。資格を取れば面談スキルはアップし、ご自身のポジションは安定するでしょう(契約の継続に有利になる等)。これらの皆さんは「資格を活かしたい!」などと悩むことはないでしょう。
一方、上記以外の方は、”相談者と出会う場所”に行かねばなりません。企業内であれば異動して、人事やキャリア相談窓口などに行くか、そのような業務を扱う会社に転職するかとなります。これには相当な覚悟が必要であり、何よりも会社都合に左右されます。結果、「資格を活かしたいのだが…」と悶々とするのです。私のキャリコン仲間にもたくさん居ます。
また企業の人事に居たとしても、キャリア面談業務を積極的に推進している会社は多くはありません(例えばココによれば数~5%)。だから面接試験で、「資格を取ったらセルフキャリアドック制度を導入して、従業員の皆さんの相談にのりたい!」と言うのです。但し、制度の立上げは容易ではありません。経営側を説得することが大変だからです。役員クラスになっておられる方は、「自らのキャリアは自ら築いてきた」と自負している方が多いのです。「キャリア?そんなもん、会社があれこれ言うものではなく、自分で切り拓くものだろう?」という昭和の化石のような方もおられます。
令和のセルフキャリアドックを立ち上げようとする方は、人的資本経営の重要さを論じながら、「多くの従業員(=相談者)が欲している」というエビデンスを役員に見せ、説得せねばならないのです。
つまりこの場合、「人事部のキャリコンである貴方がやりたいことかどうか?」=「資格を活かせるか?」は会社にとっては問題ではないのです。これらの皆さんは、資格を活かす前に「相談者のニーズを顕在化し、提供できる価値を具体的に示し、相談の場に来てもらわなければならない」のです。
これは既にキャリア相談室を設けている会社でも同じであり、相談者を増やすために皆さん苦労しているようです。「自分がどうしたいか?」というキャリコン目線でなく、「どんな価値を提供できれば、相談者に来てもらえるか?」という相談者目線への切替えが必要なのです。
一方、私のように、どこの組織にも属さず独立起業する人もいるでしょう。しかし「自分がやりたいこと(資格を活かしたい)」と、「それが仕事になるか?」は全く別の事です。私は自動車部品メーカーの技術者でした。企画部で技術戦略の検討業務も行いましたが、当時から、「プロダクトアウトからマーケットインへ転換せよ」と叫ばれていました。前者はメーカーが良いと思うものを作ること、後者は市場が望むものを作ることです。「良いものを作れば売れる時代は終わった! これからは市場が本当に望むものを作れ!」という訳です。
これをキャリコンの仕事に当てはめると、「キャリコンがやりたいことをやる」はプロダクトアウトで、「相談者が望むことをやる」がマーケットインなのです。「資格を活かしたい」というキャリコン目線だけでは、どうにもなりません。相談者のニーズを顕在化し、提供できる価値を示し、キャリコンである私を選んでもらい1、相談の場に来てもらわなければならないのです。
立場によってやることは全く違う
前述のように、現職で目の前に相談者が居る人と、そうでない人は「資格を活かす」ためにするべきことが全く違うのです。これから面談制度(セルフキャリアドック)を立ち上げる人は、相談者のニーズと得られる価値を明確化して、相談者に来てもらわねばなりません。フリーランスなら、相談者と巡り合い、信頼関係を築いて、指名してもらわねば仕事にならないのです。
資格を活かせないで困っている人はどうしているのか?
それでは「資格を活かせないで困っている人」はどうしているのでしょう? 先に述べたように大事なことは、「相談者に接し、そのニーズを顕在化し、得られる価値を具体化して、相談に来てもらう」ことです。
しかしながら、皆さん真面目ですねえ。「仕事が得られないのは、私の知識やスキルが足りないからだ」と考えるんですよね。かくいう私もそうでした。するとどうするか? とにかくロープレ勉強会に参加し、有資格者向けセミナーを受講。出来る事(Can)を増やし、自己理解を深める方向に行くんですよね。「勉強しないと忘れてしまう」という恐怖に怯えながら…
私は資格取得後の自己研鑽・自己啓発が不要だと言っている訳ではありません。学び続ける姿勢はキャリコンに必須であり、R6年に改訂された倫理綱領でもその重要性は強く謳われています。しかし重要なのは「資格を取ったらどう活かすか?」という呪縛にも似た質問から離れ、「どうしたら相談者に価値を提供できるか?」と視点を切り替えることだと思うのです。
私は、このことに気付くのに2年も掛かってしまいました。今、フリーランスとしての最大の関心事は…
- どうしたら、私が支援したい人たち、私の知見が活かせる人たちと出会い、
- その人たちと信頼関係を築き、
- その人たちに選んでもらえるような価値を提供することができるのか?
ということです。実はこれって、キャリアカウンセリングを社会実装するためには必須の視点であり、「相談者という市場2」を耕さないと、キャリアカウンセリングの仕事自体が増えないと、私は考えています。
「資格を活かしたい」とモヤモヤしている有資格者の皆さん、ぜひご意見いただけますと幸いです。内容を公開してもいい方は、コメント欄からお寄せ下さい。公開したくない方は、以下のお問合せフォームから、ご意見下さい。そして「相談者ニーズを顕在化し、カウンセリングに来てもらう方法」を共有し、市場を耕しましょう! どうぞ宜しくお願いします。□
- 厚労省が用意している「キャリコンサーチ」を始め、民間団体が運営する、キャリアコンサルタント一覧表は複数ありますが、この一覧表を見て、キャリアコンサルティングを依頼する相談者はどれだけいるでしょう? 自分に会うキャリコンをここに探しに来て、記載事項だけを見て、選択できる相談者はどれだけ居るでしょう? あなたが相談者だったら、選べますか? ↩︎
- 私はフリーランスのカウンセラーとして、個人から相談料をいただくので、あえて市場と表現させていただきました。 ↩︎
コメント
ニーズを満たす価値が提供出来るとなった後に、他で無料で似たようなサービスを享受出来ている環境の中で、誰からお金をいただくか、いただけるかを、非常に考えてしまいます。
おっしゃる通りですね。
公共機関では提供していない価値とは何か? しっかりと考えていきたいと思います。
ハローワークには、就職先に関する情報、職業訓練情報、セミナー情報、各種助成金情報など、膨大な情報が集まっています。
私のようなフリーランスが、これに太刀打ちできるはずもありません。
違う価値を提供できないと、仕事にはならないと思います。