キャリアコンサルタントの実技試験のロープレ会に参加するようになって、約10カ月経ちました。沢山の経験をさせていただきましたが、カウンセリングの良くある失敗例と、そこから学んだ教訓について、自身の経験から書いてみたいと思います。第1回は、「自分に似たクライエントの時は注意」です。
経験代謝のキャリアカウンセリングにおいては、まず来談目的に至った経験を語ってもらいます。例えば「職場の上司と反りが合わなくて困っている」が来談目的であったならば「上司の方と何かあったのですか?」と、その経験を聴きます。「あるとき上司からこんな理不尽なことを言われたんですよね。ホントに困っちゃいますよ。今は多様性の時代でしょ?そんな発言、時代遅れですよね?」とクライエントが言ったとしましょう。キャリアコンサルタントは自身の経験に照らし、(ああ、そういう時代遅れの上司っているよね!)と思いながら、「そうですね、多様性の時代ですよね」などと共感します。
このようなやり取りを繰り返していると、一見、とても話が盛り上がり、クライエントに共感しているような感じになってきます。しかし、それは飲み屋での愚痴と大して変わらないのです。何故でしょうか? クライエントは共感してもらって気持ちいいかもしれませんが、そこに新たな気付きがないからです。
私は養成講座でのロープレにおいても、何度か同じようなミスをしてしまったことが あります。そのときの先生の言葉がとても印象に残っています。
「あなたは、会社でたくさんの経験をされてきたのですね。だから、クライエントの気持ちが分かり過ぎちゃうのでしょう。しかし分かったと思っているのは、あなただけであって、クライエントが語る経験、感情はキャリアコンサルタントが描いたそれとは異なるかもしれませんよ。それはクライエント中心のカウンセリングではありません。」
そうなのです。「多様性」などと言っても、クライエントが考える多様性の概念と、キャリアコンサルタントが考える「多様性」は全く別物かもしれないのです。別に、Wikipediaの定義を見ながら話している訳ではないので、その捉え方はさまざまです。
そんなときは、「そうですねえ、多様性ですね。大事ですよね… ところで、〇〇さんがおっしゃるところの多様性ってどういうものですか?」 などと質問するのが良いでしょう。クライエントは、もっと具体的な例を挙げて、その人が考える多様性についてお話ししてくれるでしょう。そのような問い掛けをするうち内省が深まり、その人の自己概念が現れてきます。
ちなみに、私のようなシニア世代のサラリーマンは、会社でよく分からない言葉が出てきたとき、分からないのに分かったフリをする習性が身についています。このサラリーマン処世術もカウンセリングにおいては捨てなければなりません。一旦プレーンになり、分かったフリをせず、好意的関心をもってクライエントに接する… そのようにありたいものですね。□
コメント