私は前職において、技術系部署の人材育成を担当し、キャリア面談が出来る体制を構築しました。その際、特に留意したのは研究者・技術者にマッチした育成大系を提示することでした。会社には人事部が策定した人材育成大系があります。会社の経営理念体系を基に、自社に求められる人材像を具体化。そのために必要な教育カリキュラムを示したものです。
しかしながら、人事部さんが作った育成大系は会社としての最大公約数なんですよね。新人さんが受ける社会人としての基礎教育だったり、メーカーとしての品質管理に関する教育、安全やコンプライアンス教育等が、全社共通の基礎教育として位置付けられていました。我々研究者・技術者は更なる専門知識が必要となるため、各種の技術教育カリキュラムが準備されておりました。
次に必要なのは、それら専門技術カリキュラムをどう選択するか、そして、そこには無い技術、考え方をどう学ぶかです。今の時代、技術者といえどもMOTの基礎知識は必須であり、戦略的思考、部下との面談技術など、コンセプチュアル系、コミュニケーション系のスキルも職位に応じて学び続ける必要があります。
しかし、これらについては全社の教育大系に表現されていません。そのため専門性の高い技術系部署の教育は、個人任せになってしまうのです。「自己研鑽・自己啓発として”各自が自律的に取り組む”」なんて言えば格好良く聞こえますが、技術の現場も暇ではありません。厳しい残業規制もある中、目先の成果が求められる人たちに、その責務を丸投げしていて良い訳がありません。
コロナ禍前のOff-JTは、業務とは離れた研修施設等に缶詰なって行われたものでした。いわゆる集合研修であり、他部署の同期と研修を受けることで、旧交を温め、良い刺激をもらったものです。しかしコロナ禍で研修のオンライン化、オンデマンド化が急激に進みました。すると業務から切り離して受講することが出来なくなるんですよね。同じことは、昨今のリスキリングでも言われることですね。
そこで重要となるのは、全社の経営理念を自部署の理念として、ブレークダウンすることです(下図①)。全社レベルの方針は抽象的であり、「そりゃあ、そうあるべきだよね」的なものでしょう。しかし、いざ自身の業務に当てはめたとき、「具体的にどうすればいいの?」という方が多いのではないでしょうか? 抽象的な方針を具体化せねば行動出来ないのです。Mission-Vision-Valueの3階層で、自部門に合わせた具体的な文言に落とし込みましょう。これはとても難しい作業。全社レベルの経営理念を自部署に落とし込むなんて、担当役員でも尻込みしますからね。但し、それを無くして、理念の実践は出来ません。
次に自部門の経営理念を実現するための、人材育成大系に落とし込むのです(下図②)。その上で、全社の人材育成大系と比較検討するのです(下図③)。①はとても大変ですが、②、③のフェーズは楽しいものですよ。ぜひチャレンジしてみて下さい。
これを行うと自部門が行うべき育成計画が、より具体的になります。具体的な文言としてお示し出来ないので恐縮ですが、これが出来ると経営役員に説明を求められても慌てる必要がなくなります。「お前の部門では、こういう教育が必要なんじゃないか?」と枝葉の対策案を指示いただいたとしても、経営理念のレベルで議論すれば良くなりますよ。ブレない教育が出来るようになります。□
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