キャリアカウンセリングのインテーク面接(初回の面接)においては、「問題解決を急いではならない」と言われます。国家資格キャリアコンサルタント試験の論述試験(JCDA)においても、ダメな事例ではキャリアコンサルタントの思い込みで問題解決に走る…というパターンになっています。インテーク面接ではクライエントとの信頼関係を築くことが最優先だからです。
しかし私のような理系人間にとって、問題解決思考を抑えてクライエントの感情に寄りそうことは大変難しいのです。ここでは私の経験から「問題解決思考を抑える方法」をお伝え致します。同じ悩みを持つ皆様のお役に立てば幸いです。
カントの知情意

哲学者のカントは人間の精神のはたらきとして、知情意を唱えました。
- 知(智)—知性に関わる心のはたらき
- 情 ー感情に関わる心のはたらき
- 意 ー意思に関わる心のはたらき

夏目漱石は草枕の中で、”智に働けば角が立つ。情に棹せば流される。意地を通せば窮屈だ” という有名な文章を残しました。
ここからも分かるように、人は3つの観点からものを捉えます。
- 知(智)ー論理に照らして正しいか?
- 情 ー感情が動くか?美しいか?
- 意 ー大儀はあるか?善いか?
例えば、あなたの会社で、あるビジネス案件を推進するか否か判断が求めらている場面を想像してみて下さい。
- 知(智)ー自身が持っている知識に照らして、論理的に正しいか否かを問います
- 情ーそれが上手くいった時、お客様もしくは自分はどう嬉しいかを問います
- 意ーそれは社会的に意味があるのかを問います(SDGs的観点等)

この3つが揃い、それが確からしいならばGoの判断をするでしょう。どれもダメならStopの判断をします。たとえどれかが欠けていても、どれかが強烈に確からしいならば、Goの判断をするかもしれません。
何故でしょう? 人は知情意の3つに対し重み付けをして判断をしているからです。例えばSDG’sの観点(意)から是非やるべきであり、嬉しく(情)もあれば、採算(知)をある程度度外視してもGoサインを出すでしょう。 またシーズオリエンテッドの案件、例えば「こんな理屈でこんなものが出来た。これは何かに使えないかな?」といったテーマでは知を重視。ニーズオリエンテッドテーマでは情を重視しますね。
みなさんは通常、知情意のどれを重視した判断をしていますか?
私の知情意遍歴
知を追い求めた時代
私は学生時代~入社後しばらくは、知が第一優先でした。研究開発のエンジニアは誰よりも論理的であるべきだと考えていたのです。知から外れるような案件については、教授であろうが役員であろうが、平気で食って掛かっていました。「人は技術の下には平等だ!」なんて思っていたのです。理屈に合わないことは一切やりたくないと公言していました。
意を学んだ時代
技術系部署から企画部署に異動し、技術戦略や事業本部との連携業務を担当するようになると意を重視するようになりました。いくら理屈(知)で推しても、社内では大儀が明確でないとテーマを推進することが出来ないからです。MOT(技術経営)を学び、クリティカルシンキング(批判的思考)を学びました。
情の大事さを知る時代
しかし理屈と大儀だけでは、人は動かないことを知るようになります。「人は感情の生き物だ」と言いますが、相手の心が動かないと何も進まないことを痛感しました。沢山の役員に報告しましたが、役員がいつも見ているのは「コイツ何処まで本気なんだ? 情熱持っているのか?」であって、論理的に正しいとか、大儀はあるのかなんて二の次であるということが多かったのです。
これは役員だけの話ではありません。普通の人は情を大切にします。私は以前、妻と他愛もない会話をしているとき、「結論から話して!」とうっかり言ってしまい、大変なことになりました(笑)。ついつい当時、部長から言われていた言葉を妻に言ってしまったのです。

会社では知と意で何とかなっても、普通の人は知と意なんてどうでも良くて、情を交わすことの方がよほど重要なのです。
さらに私はコーチングやキャリアカウンセリングを学ぶことになりました。そこで学んだことは、優先すべきは情であり信頼関係を構築すること。知や意の観点で問題解決を急いではならないということでした。
しかし、その後も問題解決思考を抑えられるはずもありません。私はキャリアコンサルタントの養成講座にて講師の先生から言われた一言を今でもはっきりと覚えています。クライエント役に向かいクリティカルシンキング的思考を使って、あれやこれやと質問を投げる私に対し先生が言ったのは、「で? あなたは一体、何をしたいんですか?(怒)」。そうなんです。そう簡単に問題解決思考が抑えられる訳ではないんです。
知情意のバランスが大事
私が経験から学んだことは「知情意のバランスが大事」ということです。50年も掛けて、ようやく気付いたことですが、これを体得するには修行の毎日ですね。
今、多くの会社で1on1ミーティングなど、上司と部下の間で真の対話が求められています。これは知と意を重視し、情を挟まず、しくみを構築することで会社運営してきたことに対する反動だと私は捉えています。
キャリアカウンセリングの場面で、問題解決思考に走ってしまう方は、ご自身の思考遍歴を棚卸ししてみることをおススメします。□
■問題解決思考シリーズ
- 全ての悩みは主観的 ~心の問題に客観的な解決などない~
- クリティカルシンキングは危うい ~相談者を振り回さない~
- カウンセリングにおいて大事にしてきたものを捨てる
- 自動運転プログラムを止める ~マインドフルネス瞑想はジャッジしない訓練法~
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