よくあるタイプのお悩みに「××な上司が居て困っている」とか、「部下が△△で困っている」というものがあります。アドラーは「全ての悩みは人間関係」と言ったそうですが、職場でのお悩みの多くは人間関係ですね。その悩みが高じて「すっかり自信が無くなった」とか、「もうこの会社辞めたい」とか… たかが人間関係、されど人間関係ですね。
その場合、相談者の口から語られることは、たいていネガティブな話。「その上司は全く責任感がなく、何でも部下のせいにする」とか、「その部下は自分の好きなことしかやらず、嫌なことにはプイと背を向ける」とか… どこの会社にも居るんですねえ、そんな人。相談者の怒りの感情に思わず同情してしまいます。相談者の方、嫌な出来事をありありと思い出して、イライラしてきたようです。
さて、そんなネガティブエピソードを吐き出してもらううち、どんどんと時間は過ぎていきます。15分のロープレ、もう10分過ぎたのに語られたのは愚痴だけ。ヤバい!主訴が分からないとなって、「その時、どう感じましたか?」なんて訊こうものなら、「だからそれが許せないって言っているじゃないか!」と余計にヒートアップしていきます。「”許せない”とは、どういうことですか?」なんて訊こうものなら、「あんただって、そんな奴、許せないだろ? さっき頷いていたじゃないか!」と嚙みつかれてしまいそうです。
私はそういう場面に遭遇したとき、以下のような質問していました。
- 「その上司について、他の人はなんて言っていますか?」
- 「その部下のこと、上司には相談したのですか?」
これは”他者の視点からの解釈を求める質問”です。ヒートアップしている相談者に対し、「違う視点から見てみたの?」、「本当にそうなの? あなたの思い込みじゃないの?」と言った、キャリアコンサルタントの見立てがチラついています。更には「その上司の態度を改めさせる方法はないか?」、「その部下にやる気をもってもらう方法はないか?」といった問題解決思考が見え隠れします。どうしても会社業務の中で染みついたクリティカルシンキング(批判的思考)のスイッチが入ってしまうのです。
解決しなければならないのは、相談者の許せない気持ちや、揺らいでいる自己概念であって、その主語はあくまで相談者。”他の人”がどう思っているなんて、ここでは問題ではないのです。
もっと言えば、「他の人も相談者と同じように思っている」ということが分かったところで、「客観的に見ても、その人が問題なんですね」と犯人を明確にすることにしかならず、相談者の悩みは解決されないのです。
私は受験生の頃、上記のような失敗を幾度となく繰り返しました。そしてそのうち、「他の人はなんて言っていますか?」と問いたくなったら”赤信号”だと自己認識するようになりました。相談者をクールダウンさせ、その視点を変えたければ、
- 「ところで… 貴方は普段どのような仕事をしていますか? お客様は誰ですか?」
- 「大変ですねえ… ところで貴方は、どんなことを大切にしてお仕事されているんですか?」
などと、あえてポジティブなことを訊くようにしました。するとどうでしょう? 「もう、その上司のことはどうでもいいんだよね。それより、私は部下に元気に働いてほしいんです。」などと前向きなことを語り始めたりするのです。すると「ありたい姿」が見え、「ネガティブな現実」との間のギャップに苦しんでいることが見えてきます。つまり主訴が見えてくるのです。
「他者の視点を問うたくなったら注意! 解決するのは”相談者”の悩みであって、自己概念の成長を促すのがキャリアカウンセリングである」と私は自身に言い聞かせています。□
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