予防倫理と志向倫理 ~志向倫理でより良く生きよう~

技術者倫理
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札野教授が提唱する技術者倫理教育の中で、とても重要な概念である二つの倫理について、下図を用いて紹介しましょう。

まず上半分をご覧ください。これは組織における倫理観分布のイメージです。右側に行くに従って倫理観が高くなると考えて下さい。どんな組織にも倫理観が高い方、低い方がおられます。しかしながら、倫理観が低過ぎると、捏造や改ざん、盗用等が起こり問題が起こります。下図においては、その限界値を赤線で示しています。赤く塗りつぶした領域にいる方に対しては、その倫理を正して引っ張り上げなくてはなりません。

ここで用いられるのが「予防倫理」。やってはいけないことや守るべきこと(ルール)を示し、悪いことや不正が起きないようにするものです。「これを守らないと捕まるよ!」と示し、コンプライアンスの遵守を求めます。しかし対象者の意識の矢印は自分に向かい、萎縮してしまいますね。

大多数の方(赤線の右側の人たち)は、ある程度の倫理観を持って、真面目に業務に取り組んでいます。進んで悪いことをしようとする人は少ないでしょう。そのような人たちにとって、予防倫理で不正を無くせと言われても、「分かってるよ、うるさいなあ… ちゃんとやっているよ!」となりますね。管理者からの言い方が命令口調であれば、たとえそれが対象者の安全(捕まらないこと)を願った内容であっても、逆効果になります。「あの人は自分の保身ばかり気にしている」と…

もう一つの倫理は「志向倫理」。更に善い社会を創っていくために何をしたらよいかを問うものです。そもそも、この組織は何を目指していたのか?を一人ひとりに問い、その為に何をすべきか自律的に考えてもらうのです。このとき、対象者の意識は外側に向かいます。組織のため、社会のために私は何をすべきかを考えています。このように組織全体を鼓舞し、より良い社会の実現に向けて動機付けをすることのが志向倫理。結果として組織全体の倫理観は右にシフトしていくのです。

技術者・研究者は高度な専門知識・技術をもった職業人=Professionalです。古来、Professionalと呼ばれる人は、聖職者や学者、法律家、医者に限られていました。彼らは高い規律意識をprofess(公言)し、社会奉仕を行う人たちだったのです。Professionalの意味が拡大した現代において、その原義に返って在り方を問うのが志向倫理であるとも言えるでしょう。

但し、ここでお伝えしたいのは、志向倫理が予防倫理よりも優れているということではありません。どちらの倫理も重要であり、その組織の状態に応じて使い分けていくことが肝要です。札野教授の講演では、科学技術倫理の基本とは何か? 国内外の動向を含めた様々な観点から考える機会を提供します。ぜひお問合せ下さい。□

※ 本稿は早稲田大学 札野教授のご講演内容に沿い、筆者の私見も交えてお伝えするものです。

参考文献:「志向倫理と技術者倫理教育」、日本工学教育協会 平成30年度 工学教育研究講演会論文集

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