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  3. ロールモデルなどありません ~役割は自分で創る~

私が現役技術者の頃、上司と評価面談をすると…

「〇〇さんのようなタイプを目指したいとか? そんな理想の人は居ますか?」

と問われたものです。昨今の言葉で言えばロール(Role : 役割)モデルですね。製品開発も手掛ける研究所でしたので、即売り物になるような機械の開発から、ソフト開発、機械要素研究、生産技術の開発まで、業務は多岐に渡っておりました。お客さんに接する仕事もあれば、研究室にこもって一人コツコツ研究する人も居たのです。

マネージャーの仕事の仕方も様々でした。事業部の人と喧々諤々やりあっている人もいれば、ひたすら図面をチェックし設計を取りまとめている人、実験室で部下と議論している人もいました。それぞれの分野にあった、それぞれのスタイルで研究開発をしていたのです。概して席に居ない人が多かったですね。

さて、私が人材育成を担当するようになった7年前、最初に命じられたのは、研究者・技術者とそのマネージャーに要求されるスキル、マインドを全て棚卸しし、能力開発を行うための教育プランを提案することでした。

その大系を取りまとめるには2年ほどかかり、上司にコンセンサスを得るには更に2年ほど掛かったでしょうか? そもそも正解など何処にもないので、「ああ、これでいいよね」と言ってくれなかったのです(笑)。

それと同時に行っていたのは、職位と能力の関連付けですね。これがとても厄介でした。人事の規定には「〇長の役割は~で、~な能力を身に付けていること」と謳ってあります。これが評価基準でもあるのです。

しかし前述のように、技術者・研究者の人は特殊な働き方をしており、規定が当てはまらないのです。これには困りました。異業種交流会で知り合った先生から「研究者・技術者の能力基準は、その職場に合わせた形で、当事者が作るしかない。人事は貴方たちの仕事なんて分からないんだから… 覚悟決めてやりなさい。」とアドバイスをいただきました。1

私は自身の経験や周囲の観察から、技術者・研究者に求められる能力を職位と関連付けてまとめ、退職前にいちおう発効してきました。しかし、この資料は何時まで経てもコンセンサス得られないでしょうね。正解はないし、実態とも合わないのですから…

さて、この頃からよく使われるようになったのが、ロールモデルという言葉。上司と部下がキャリアについて論じる場面になると、部下から、「ロールモデルを示して下さい」とか、「ロールモデルとしたい人が居ません」、「マネージャーのロールモデルはありますか?」という言葉が出始めました。

その後に続くのは、「無いんですよね?(結局誰も分からないんですよね? それなのに部下にキャリアの話なんか持ち掛けないで下さい!)」という怒りを含んだ言葉です。上長も答えられず、言葉を濁すしかありません。「~な能力を身に付けたら、〇長にしてやれる」なんて容易く言えないのです。

退職した今、改めて考えてみると、VUCAの時代にロールモデルを設定しようということ自体、あまり意味がないのかもしれません。環境が激変したので、昭和~平成のマネジメントスタイルは役に立ちません。ましてや、リスクを取りつつ大胆に振舞わねばならない研究開発部門のマネジメントなんて、自分で試していくしかないのです。技術マネジメントMOT(Management of Technology)は確立された学問ではなく、日々深化しているのです。

新しいマネジメントスタイルを模索していくことには、余程の挑戦好きでない限り、相当な不安が伴います。マインドフルネスでストレス耐性を上げ、ロールモデルなんか無いことを受け容れ、VUCAの時代に向き合っていきましょう。□

  1. 多くの業務については、厚生労働省 職業能力評価基準という公の資料があります。→ココ なかなかスゴイ資料であり、活用しない手はありません。一般的な業務に関しては、これをベースとし自社用にアレンジするのがよいかと思います。 ↩︎
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