キャリアとは何か ― 狭義から広義へ、そしてライフキャリアへ

ライフキャリア相談のすすめ
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キャリアという言葉の広がり

「キャリア」という言葉を耳にしたとき、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか。昇進、転職、スキルアップ――。人によって思い描く姿はさまざまです。

もともと「キャリア(career)」は、英語で「経歴」や「生涯にわたる道筋」を意味します。しかし、日本では時代とともに、その意味が少しずつ変化してきました。

当相談室は ”ライフ”キャリア相談室 と銘打っています。本稿では、キャリアの定義を「狭義から広義」へと整理しながら、最終的に「ライフキャリア」という考え方へとつなげていきます。

狭義のキャリア:組織内の昇進・役職としてのキャリア

かつて日本で「キャリア」と言えば、会社の中で昇進を重ねた人、あるいは役職を持つ管理職を指すことが一般的でした。「キャリア官僚」という言葉にも見られるように、組織の階段を上り詰めた“エリート”がキャリアの象徴だったのです。

この時代のキャリアは、「会社の中で築くもの」であり、職場という枠組みの中で完結していました。そこでは安定や忠誠、年功序列が前提となり、個人の生き方や価値観はあまり問われることがありませんでした。

中義のキャリア:職業的専門性としてのキャリア

バブル崩壊を経て終身雇用が揺らぐと、「キャリア=職種や専門性」という新たな考え方が広まりました。「営業としてのキャリア」「エンジニアとしてのキャリア」といったように、職能やスキルの蓄積が重視され、転職市場の発展とともに“自分の腕で生きる”という発想が生まれたのです。

この時期のキャリアは、「どの会社に属しているか」よりも、「何ができるか」に焦点が移りました。つまり、キャリアは会社のものではなく、個人のものへと変わっていったのです。

広義のキャリア:働き方・生き方そのものとしてのキャリア

さらに近年では、キャリアは「仕事」や「職種」にとどまらず、生き方そのものを含む概念として語られるようになりました。
アメリカのキャリア心理学者ドナルド・スーパー(Donald Super)は、「キャリアとは人生のあらゆる役割を通じて形成されるものである」と説いています。人は仕事人であると同時に、親であり、学習者であり、市民でもあります。これらすべての役割が組み合わさって、その人の人生の物語を形づくっていくのです。

ライフキャリアとは:働くことと生きることをつなぐ視点

このような広がりを持ったキャリアの概念を、私は「ライフキャリア」と呼んでいます。
ライフキャリアとは、働くことを中心に据えながらも、人生全体をどのようにデザインするかという視点です。

たとえば、

  • 定年を迎えたあと、どんな生き方を選ぶか
  • 家族や地域との関わりをどう大切にしていくか
  • 学び直しやボランティアなど、新しい挑戦をどう位置づけるか

こうした選択のひとつひとつが、ライフキャリアの重要な要素になります。つまり、キャリアとは「職業経歴」ではなく、「生涯をかけた生き方の軌跡」と言えるのです。

これからの時代に必要なライフキャリア思考

現代は、変化が激しく将来の予測が難しい「VUCAの時代」と言われます。会社の中での序列や専門スキルだけでは、もはやキャリアの安定は保証されません。

これからの時代に求められるのは、
「自分は何を大切にして生きたいのか」
「どんな形で社会に関わり続けたいのか」
といった、より根源的な問いに向き合うことです。

その答えを見つけることができれば、転職や定年といった外的な変化にも、柔軟に対応できるようになります。ライフキャリアは、変化を恐れずに“生涯を通じて成長し続ける力”を育む考え方なのです。

おわりに:キャリアの定義を広げることは、人生を広げること

キャリアには、いくつもの定義があります。

  • 狭義のキャリア:昇進・役職など組織内での成功
  • 中義のキャリア:専門性やスキルとしての成長
  • 広義のキャリア(ライフキャリア):人生全体の歩みと自己実現

これらは対立するものではなく、むしろ「層」として積み重なるものです。組織での経験も、職業的スキルも、人生の選択も――すべてが一人ひとりのキャリアの一部なのです。

私は、ライフキャリア相談を通じて、相談者の方々が“働く”と“生きる”の接点を見つめ直すお手伝いをしています。キャリアの定義を広げることは、人生の可能性を広げることにつながります。あなた自身のキャリアを、ぜひ「生き方」という視点から見つめ直してみてください。□


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