先のコラムにおいては、1on1における上司/部下の言い分について考えてみました。上司も部下も「ちゃんと聴いてもらったという体験」をしてこなかったので、実施する意味を感じられないのだと、私は思います。「会社がやれと言ったから、とりあえずやる」のでは、誰も幸せになりません。
さて、1on1にも増して難しいと言われるのがキャリア面談。「キャリアについて話せ!」とテーマは決まっているものの、とてもデリケートな話ですから、どう話していいのか分からない方がとても多い。面談の仕方について事前に研修を実施する企業もあるようですが、その程度は様々で、上司の不安を払拭するものではないようです。そこで今回は、キャリア面談をめぐる上司/部下の言い分について考えてみましょう。
まず上司側ですが、「自分のキャリアは自分で考え、切り拓くべきだ」と考えておられる方がとても多い。「キャリアを自律的に考える」ことはとても重要。他人任せにしないことが最も重要なのです。但しこれは「誰にも相談せず、自ら考え、自らの力だけで切り拓け!」という訳ではありません。「会社でキャリアのことを相談しなくても良い」という訳ではありません。

誤解を恐れず言えば、役員、部長など、社内で出世した方ほど「自分のキャリアは自分で切り拓いてきた」という自負をお持ちのように思います。だから「出世したけりゃ、努力しろ!」と突き放す… しかし「自分が出世できたのは、あの人に導かれたからだ」「あの人のあの一言で自分のキャリアは一変した!」と語る方もおられます。端から見ているとスゴイ努力をされてきた方こそ、そうおっしゃるのです。
「キャリア」という言葉が意味するものも大きく変わりました。高度成長期は社会の波に乗って脇目も振らず突き進めば良く、その努力の先には昇進がありました。「キャリア=昇進」の時代です。但し現代高度成長の負の側面に目を向けざるを得ない時代。昇進してマネージャーになることは、ご褒美でも何でもなく、罰ゲームと言われる時代です。若者にとっては「キャリア=自分らしい働き方の選択」といった捉え方が一般化しています。そういった背景があってのキャリア面談なのです。
さて、そのような背景を受容れた上司にとっても「じゃあ、具体的にどう行えばいいんだ?」という問題が起こります。罰ゲーム化した管理職。自らのキャリアも描けない中「部下のキャリアを約束する」なんて出来ないし、聴いてしまったら叶えられるように支援しなくてはならない… 「言ったもん勝ち、聴いたもん負け」です。「そもそも自分は会社の意向に沿って異動も転勤も受容れてきた… なのに、”自分らしさ”という言葉で、わがまま言うなよ…」、「やりたいことや夢を語ったところで、どうするんだ?」 ――― そりゃあ、そうなりますよね。
一方、部下はどうか?と言えば、概して優秀な部下ほどキャリアを自分事と捉えており、転職や副業、独立など、色々な選択肢を考えています。「会社にどうにかして欲しい」などとは考えていない。私の世代が若い頃は、「会社に対するロイヤルティ(Loyalty)=忠誠心」が問われましたが、今や死語。特に就職氷河期世代の方は、その傾向が強いのではないでしょうか?
自立・自律の意志が強い方がいる一方で、「静かなる退職」という言葉に代表されるように、無気力な方が居るのも事実… このような人にとって、「会社で、やりたいことや夢は何?」と問われることは苦痛ですよね(”WILLハラスメント”なる言葉もあるようですね)。 中間層の方はどうかと言えば、「世間では自律的なキャリアが問われているが、自分では何をしていいか分からないし、会社も何をしてくれるのだろう?」という人たち。総じて部下の側も、キャリア面談を望んではいない…ということになります。
このようにキャリア面談は「お互いに実施する意義を感じられないもの」になっている…と私は思います。しかし「実際に話してみたら、普段は聴けない部下の仕事観が分かって、有意義な場になった」、「思い切って自分の夢を話したら、具体的なアドバイスももらえたし、何よりスッキリした!」なんて話もあるんです。明らかに職場が良い方向に動いた! ――― そうなんです。本来、その為のキャリア面談なのです。
「やって良かった!」と思われるキャリア面談をどう増やすか? 私は以下の2点が重要だと考えています。
- 上司が、基本的な傾聴スキルを学ぶ
- 上司が、自分自身のキャリアを通して、基本的なキャリアの考え方を学ぶ
「罰ゲーム」ではなく、相互に有意義な場とするためには、上司が変わることが必要です。前者は先のコラムで書いたように「聴いてもらう嬉しさ」を自ら体験することです。それが腹落ちすれば、他者に対しても同じことが出来ます。後者は上司側の苦手意識を解消するためにとても重要。自分事として考えたことであれば、部下の考えを余裕を持って聴くことができるでしょう。自らの古いキャリア観をアップデートすることは、とても重要なのです。
そんな上司の皆さん、当ライフキャリア相談室で、キャリア面談しませんか? 「社外の奴に何が分かるんだ!?」という見方もあるかと思いますが、貴方のことを良く知らない部外者だからこそ、一緒に向き合える問題があると思うのです。お気軽にお問合せ下さい。□
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