このコラムでは、「将来直面するであろう未来の姿」を再現することの大切さについて述べています。 対象者: 、 所要:3分
面談を進める上で、時間軸を変えて質問をすることの効果について、私はコーチング研修の中で学びました。
- 以前はどうだったんですか?(過去)
- 今現在は、どう思っているのでしょうか?(現在)
- 1年後はどうなると想像していますか?(未来)
相談者に新しい視点をもってもらい、自ら解決策に気付いてもらうための手法です。質問の引き出しを増やす意味ではとても大事ですが、度が過ぎると、相談者の視点を振り回すことになりかねません。相談者が現在のことを語りたがっているのに、未来の質問をしても相談者は戸惑ってしまいます。何事もさじ加減が重要ですね。私の場合、興味本位に時間軸を振った質問をしてしまい、問題解決的なカウンセリングになってしまったことがあります。そのため私は経験代謝に基づくキャリアカウンセリングを学ぶ中で「時間軸を変えた質問」は、あえて避けていたように思います。
しかし相談者のお話を聴いていると、「私は現在55歳。今の仕事や職場に不満は全くない。しかしこのまま60歳の定年を迎えてしまっていいのか、モヤモヤしていて相談にきました。」といった相談も多くあります。こんなとき「まず経験の再現だ!」と意気込んで、「何かあったのですか?」と過去の質問をしても、「そうですねえ… 別に何かあった訳ではないんですよ。ただ5年後のことが漠然と不安なんです。」と返され、(ん? キッカケとなるような過去の経験がない?)とパニックに陥ってしまう方がおられます。さらに「どう不安なんですか?」と被せてしまい、「だからぁ.. 漠然と不安なんですよ」と一巡。何だか空気がおかしくなってきます。
私も受験生の頃はそうでしたが、”再現すべき経験”=過去の出来事という思い込みがあるのでしょう。しかし再現すべき経験は過去の出来事だけとは限りません。先の例で言えば、相談者の方は5年後の未来を頭の中で想像しています。いわば疑似体験しているのです。「役職が外れて再雇用になったら、年下の上司に指示されているんだろうな…」とか、「たとえおかしな指示であったとしても、強く言い返せないだろうな。もし言ったら職場の雰囲気が悪くなっちゃうもんな」と様々なシミュレーションをし、その上で「何だか嫌だなあ…(来るべき未来に備え)今出来ることはないだろうか?」とモヤモヤしているのかもしれません。
そのような場合は、現在のお仕事の状況をお聞きした上で、「将来直面するであろう未来の姿」を語ってもらえれば良いのだと思います。「そうなんですね… それではご自身が60歳の定年を迎えたとき、どんな姿になっていると想像しておられるのか、聴かせていただけませんか?」と問うてみてはどうでしょう? 想像の世界のことなので、「恥ずかしくて具体的には話せない」とおっしゃる方もいるかと思います。会社生活では「不確かな未来のことを”想像”で語る」なんて憚られますものね。しかし焦らずじっくり、その絵を描いていただく。そうすることで描いた未来の何が、現在の”相談者の自己概念を揺らがせているのか?”明確になってくると思うのです。
また「相談者の自己概念を形成してきた過去の出来事をしっかり語ってもらおう。そうすれば、ありたい姿が描ける!」と考え、過去にばかりフォーカスするのも、ちょっと遠回りですよね。相談者のありたい姿を描いていただくことは大事なことですが、上記の例で言えば悩みのキカッケとなる出来事は未来にあるのです。これまでの(過去の)ありたい姿は語れても、”未来のありたい姿”が明確ではないのでモヤモヤしており、いくら過去を語っても来談目的にはつながってきません。
相談者の悩みのキッカケとなる出来事が、過去/現在/未来のどこに在るのか? それを意識するだけで、カウンセリングはより豊かなものになると私は思うのです。□