このコラムでは、キャリアカウンセリングを行うときは、クリティカルシンキングは封印した方が良い...と説きます。 対象: 、所要:3分
クリティカルシンキングと呼ばれる思考法があります。ある事象を批判的に見て「本当にそれでいいのか?」、「他の見方はないのか?」、「このような見方をしたらどうか?」と、一つの考えに縛られず、物事を柔軟に捉える思考法です。私は企画部署に身を置く中で、クリティカルシンキングの能力を高めてきたように思います。
但し、最近はこの危険性も感じています。キャリアコンサルタントがクリティカルシンキングを乱用し、さまざまな観点から質問をすると、クライエントを引きずり回してしまいます。聴いてほしい話ではないので、信頼関係は築けず、課題解決指向に陥ってしまいます。多面的な選択肢を見据えつつも、クライエント中心であることを忘れてはいけません。
さて、クリティカルシンキングの乱用は、キャリアコンサルタント自身にも悪影響があると私は考えています。特に自己防衛本能が高い人が、この能力を身に着けると厄介。自身の中に新しい概念を取り入れることを拒絶するあまり、それを色々な角度から批判的に見て整理し、「自己概念とは相容れない」と差別してしまうことがあると思うのです。
とても抽象的なのでイメージ図で示しましょう。
”わたし”に対し新しい価値観が迫ってきます(図1)。その価値観を受容れるか否かで悩みが生じます。いわゆる自己概念の揺らぎです。「なぜ受け容れられないのか?」自ら気付くことによって、受容れる・受け容れないに関わらず、自己概念は成長をしていきます。人としての器が大きくなるのです。
しかしながら、外からもたらされた新しい価値観が自身の安全を脅かすものと本能的に察したとしましょう(図2-①)。多方面から物事を見直す術に長けていると、色々な視点で評価し、容易に「受容れられない理由」を見つけてしまいます(図2-②)。そして自身の価値観との間に明確な線を引いてしまいます(図2-③)。わたしとして「どう見るか?」を曖昧にしたまま、「あの考えは受容れられない」、「結局あの人とは平行線だね」と宣言することで、自己概念が脅かされない立場から論評します。差別することで、つながりを絶ってしまうので、自己概念の成長はありません。
新しい価値観に触れる前に、心にバリケードを築いてしまうような感じですね。クリティカル(批判的)であるのは良いとしても、他人事として批判し、そこに飛び込まないようでは、いつまでも平行線。交わる訳がありません。
クライエントに対しては、クリティカルなものの見方を大切にしつつ、自身に対してはクリティカル思考を抑え、「まずやってみる!」の精神で行くことが肝要。キャリアコンサルタントには、新しい価値観を取り入れる勇気が必要だと思うのです。□
■問題解決思考シリーズ
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