このコラムを読むと、「ありたい姿だけを追いかけていても、悩みが分からないこともある」と知ることが出来ます。 対象: 、所要:3分
ロープレを行っていると「仕事に対するポジティブな価値観=ありたい姿」を聴こうとされる方が多いですね。主訴は「ありたい姿」と「現状」とのギャップ… 問題解決のフレームワークと同じであり、私のような元エンジニアにとっては理解しやすいのです。しかし、「ありたい姿」ばかりを追いかけると主訴が分からないことがあるのです。
もちろん相談者が描く「ありたい姿」が実現できず、自己概念が揺らいでいる場合であれば、そのアプローチで全く構わないのです。例えば…
- 「今の職場でやっていける自信がなくなった」という相談者のAさん。
- 新しく来た課長は「メンバー同士の話し合いなんてしなくていい。俺が決めた通りやればいいんだ!」という、強権的な人でした。
- 「メンバー同士の話し合い」って、どういうことですか?と問うと、Aさんはこれまでの仕事の経験を語りました。「メンバー皆と話し合いを重ねながら、進むべき方向性を決め、幾つものプロジェクトを成功させてきた!」という経験が語られました。
- 「皆で話し合いながら決めていく」という相談者の自己概念が、新課長によって揺らがされており、「やっていける自信がなくなった」のです。
この場合は、自己概念を形成してきた経験を更に再現していけばよく、そこに意味が立ち現れてくるでしょう。
しかし、語られる自己概念は上記のようなポジティブなものばかりとは限りません。例えば…
- 「3か月後に定年を迎える。再雇用を希望していたが、辞めることも考え始めて悩んでいる」という相談者のBさん。
- 悩みのキッカケとなった経験を再現すると、「1年前、元上司が再雇用となり、現職場に居る。当初は元気に仕事をしていたが、最近は全く覇気がなく、職場のムードを悪くしている。」という経験が語られました。
- 「あんなにバリバリ仕事していた人なのに、再雇用となると、人が変わったようになってしまった。私も再雇用の道を考えていたが、あのようにはなりたくない。」と言います。
- キャリアコンサルタントは自らの経験から(あー、そういう人いるよなあ。役職外れてやる気を失ったのかなあ…)などと思いを巡らします。しかし、こちらの物差しでジャッジをしてはいけません。その元上司との経験を再現しなければと思います。
- しかし相談者も、元上司のことは語りたくなさそうです。散々お世話になってきた人のようであり、悪く言いたくないようです。
- 行き詰ったキャリアコンサルタントは、「ところで… Bさんは、これまでどんなお仕事をされてこられたのですか?」と問います。
- その後、Bさんは過去のプロジェクトの成功体験を楽しそうに語ります。確かにBさんの自己概念は明らかになってきました。しかし、そんな話をするうち、あっという間に15minが過ぎてしました。Bさんは楽しく語ってくれましたが、主訴は分からないまま終わってしまったのです。
なぜ、このようになってしまったのでしょう。後者の事例において、揺らがされたのは「元上司のようにはなりたくない」というネガティブな自己概念です。自分は再雇用になってもやれると思っていたのですが、いざ自分の定年を目前に控え、「俺は元上司のようにならない」→「なるはずはない」→「ならないんじゃないかな?」→「なるかもしれない」となり、揺らいできたのです。この場合は「ありたくない姿」と「今後なりうる未来の姿」がオーバーラップし、悩みを生じさせていたのです。
「揺らいでいる自己概念は何か?」という視点をぶらさず、「ありたくない姿」や「今後なりうる未来の姿」の背景にある経験を再現する勇気を持ちたい…私はそんな風に考えています。□